精密機械業界の6回目、最終回です。
今回は、「投資力」の分析です。
取り上げる指標は、営業CF対投資CF比率、
各社別の営業/投資CF推移、ROIC、WACCとなります。
なお、各指標についての説明はこちらです。
【営業CF対投資CF比率】
〔営業CF対投資CF比率=営業CF÷投資CF〕
この指標は、営業CFで投資CFをどれだけ賄っているかというものですから、大きければ良いというわけではありません。
将来に向けた支出としての投資CFが大きくなれば、現在事業から得られる営業CFを超過することもあり得ます。
未来の発展を目指すのなら、現下における一定の投資は必要なはずです。
4社の中では、HOYAの値が急増しています。
他の3社は、100~150%に集約しているような様相です。
各社別にみてみましょう。
【各社別 営業/投資CF推移】
〔実額ベース〕
オリンパスは、2020.03期から営業CFが大きくなっています。
投資CFは2021.03期で大きくなり、フリーCF(営業CF+投資CF(マイナス勘定))は縮小しました。
直前期の投資内容は、子会社取得の支出や有形固定資産・無形固定資産取得の支出、事業譲渡の支出などが中心となっており、体制を強化しているように映ります。
そして本日(2022.03.03)、2022.03期の営業CFが1,500億円と過去最高になる見通しとの記事が日経新聞の朝刊に掲載されました。
生み出したキャッシュをM&Aに振り向け、高い成長を目指す方向性のようです。
テルモは、2期連続で営業CFを増やしており、3期連続で投資CFを拡大しています。
直前期の投資内容は、有形固定資産・無形固定取得の支出がほとんどを占めており、事業拡大に向けた整備と映ります。
HOYAは、営業CFが微減しました。
また、投資CFは2期連続で縮小しています。
直前期の投資内容は、有形固定資産取得のための支出がほとんどとなりますが、前年よりも縮小しており、上述の2社よりも少額です。
ニプロは、直前期で営業CFを大きく拡大させました。
ただし、投資CFは2期連続で縮小しています。
直前期の投資内容は固定資産取得の支出がほとんどとなっていますが、前年よりは抑制されています。
【ROIC】
〔ROIC=(営業利益−法人税等)÷(純資産+有利子負債)〕
HOYAが20%近くと高いレベルです。
これは、上述のように投資額が抑制されている背景もありますが、収益状況が良好であることが最大の要因と言えます。
今後どうしていくのか、現在が収穫期で、今期以降勢いが弱まるのか、はたまた続くのか、気になるところです。
続いてオリンパスが10%弱となっています。
営業利益額、売上高営業利益率、ともに4社中3位でしたが、この値は比較的高いレベルで2位となりましたす。
当期の最終利益が大きく減少したため、法人税等が少なかった点も影響したようです。
テルモは継続的に投資を拡大させており、分母にあたる株主資本と有利子負債も増加しています。
増加割合は、負債よりも株主資本の方が多いという状況です。
ニプロは、4%台をうかがうような推移です。
第1回から見てきましたが、営業利益額そのものがやや物足りなく感じます。
【WACC】
〔WACC=株主資本コスト×(株主資本÷(株主資本+有利子負債))
+負債コスト(1-実効税率)×(有利子負債÷(株主資本+有利子負債))〕
資本コストが最も高いのがテルモ、
続いてオリンパス、
僅差でHOYA、
相当抑制されているのがニプロ、という順です。
テルモは、加重平均において比重の高い株主資本のコストが高めになっています。
その理由はβ値の大きさです。
2022.03.01、テルモのβ値は1.04と、他の3社よりも高いレベルになっていることが影響しています。
その結果、〔ROIC-WACC〕の値がマイナスになってしまっています。
最小値となったニプロ、加重平均の比重では株主資本より負債の方が高くなっています。
そして、負債コストが株主資本コストよりも圧倒的に低くなっています。
ただし、ROICの値が低いため、〔ROIC-WACC〕の値が大きくなりません。
〔ROIC-WACC〕が最大なのはHOYAです。
やはりROICの大きさが決め手になっています。
オリンパスもROICが比較的大きかったため、〔ROIC-WACC〕が4.0%と比較的良好な値になりました。
以上で、精密機械業界を終了します。
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