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COLUMNSブログ「論語と算盤」

対人妙手

2024年6月1日

久納市右衛門(注・龍造寺、鍋島家に仕う)御加増の事 市右衛門儀別けて御用に相立ち候に付て、御加増下されたく思召され候へども、主水殿と市右衛門仲悪しく候故、御遠慮にて御加増等をも仰付けられず候。然る処、市右衛門宅に御成り遊ばさるゝ筈に候段、主水殿これを承られ、勝茂公へ、「市右衛門御用に相立ち申し候間、此の節加増下され然るべき」由、申上げられ候。御大慶大方ならず、即ち市左衛門召出でされ、御加増下され、「主水心入れ直り、安堵至極に候。礼に参り候へ。」と御意なされ候。市右衛門悦び、直ちに主水殿へ参られ候て、御加増の御取成しの御礼、且又、御成りに付て、薄縁三百枚下し置かれ、かたじけなく存じ奉り候由、深々礼謝申し達せられ候。聞次ぎの者、主水殿へ申し達し候処、即ち面談にて、「其方奉公に精出し候故御加増の儀は申上げ候。殿御成りに付て、薄縁遣はし候。曽て其方と仲直り候儀は罷成らず候。即ち罷帰らるべく候。重ねて此方へ参らるまじく候。薄縁取返し候様に。」と申付けられ、即ち取返し申し候。其の後、主水殿死去前に、市右衛門を招き、「其方事御用に立つ人にて候へども、自慢、奢りの心これあり候。それ故、我等一生仲悪しくいたし、其方を押へ置き申し候。我が死後に、其方を押へ申す人これなく候。随分譲り候て、御用に立ち申され候様に。」と御申し候。市右衛門感涙を流し、罷帰り候由。〔聞書第八〕

(勝茂公は、久納市右衛門が、とりわけ役に立つというので、かねてから加増してやりたいとお思いになっていたが、鍋島茂里殿(直茂公の養子、勝茂公の義理の兄に当る)と市右衛門との仲が悪かったので、それに遠慮なされ、加増のことをいい出されずにいた。ところが、勝茂公が市右衛門の屋敷へお出かけになることとなったとき、これを聞いた茂里殿が「市右衛門はお役に立つものでありますから、この際、加増をなさるのがよいと思います。」と申し上げた。勝茂公は大層よろこび、市右衛門をおよびになって加増を申し渡され「茂里の気持ちが直ってくれたので非常に安心した。礼に行くがよい。」といわれた。

 市右衛門はよころんで茂里殿のところへいき、加増をとりなしていただいたお礼と、勝茂公がおいでになるというので、うすべりを三百枚いただいたことについて、かたじけないことと、厚く礼を述べられた。取次の者がこのことを茂里殿にお伝えしたところ、茂里殿は市右衛門に会い、

「その方は奉公に精を出しているから、ご加増のことを申し上げた。殿様がその方の屋敷にお出かけになるというから、うすべりを渡した。それだけのことである。その方と仲直りなどした覚えは一向にない。すぐに帰り、もう来ないでもらいたい。うすべりは返すように。」

 といわれて、うすべりはすぐに取戻された。

 後に、茂里殿が亡くなる直前、市右衛門をよんで、

「その方はお役に立つ者ではあるが、自慢、おごりの気持ちがあるように思えた。そこで、私は一生の間、その方と仲悪くして、おさえつづけていたのである。私が死んでから後はその方を押える者はもういないのであるから、せいぜい謙虚にして、お役に立ってもらいたい。」

 といわれた。市右衛門は感涙を流して帰ったということである。)

<出典:『葉隠』原著 山本常朝/田代陣基 神子侃編著 徳間書店>

 

 

 

 

煙たい人

目の上のたんこぶ

 

 

才能があり

 優秀な人こそ

  身近に必要な人物でしょう

 

 

 

新社会人として仕事を始めたころ、先輩たちからも煙たがられる経理責任者がいました。

 

物を売った後の帳合いの変更や、代金回収について一切の妥協を許さない人。

 

あまりにも口うるさいので、皆が避け気味だったのです。

 

新人の私は、なぜそこまでこだわるのかを気にしながら指導を受けていました。

 

 

やがて業務の流れを体得できた頃から、その人の態度は変わりました。

 

厳しく検証はするものの、信頼されていることを感じたものです。

 

 

誠心誠意作られた製品

 それを誠実に一所懸命売ったなら

  一円たりとも回収不足は許さない

 

お客側の勝手な都合で

 帳合いを後から変更する

  そんな理不尽な対応は承服できない

 

まさに地に足のついた商売を教えてくれたのです。

 

 

 

 

こんな話を聞いたことがあります(ということにしておきます)

 

ある会社が新しい分野へ事業を広げようと、新規の部署を設置しました。

 

その部署に、誰もが知る大会社から特別仕様製品の大量引き合いが入りました。

 

商談も最終段階に入ったところで、その顧客からさしが示され、会社既定の半分の利益率しか得られないことが明らかになりました。

 

しかし、向こう一〇年ほど継続する計画の物件でもあることから、上層部の判断は受注せよとのことです。

 

 

 

その後、その大量の製品をいかに納品設置するかという問題への対処において、外注先に依頼することになりました。

 

すると、当然ながら新たな費用が発生します。

 

上層部に申請したところ認可されましたが、

組織の№2による認可書面には

 

  こんな薄利の商いなどやめてしまえ

  今後同じような対応は言語道断と心得よ

 

 

と、辛らつな叱責の言葉が連綿と記されていました。

 

 

この物件の担当者は、こんなこともある、そんな中やっていかねばならないのだと比較的軽く考えていました。

 

 

 

 

ところが後日、ある事に気づきます。

 

申請した金額は会社の最高決定権者の決済領域だったにもかかわらず、その押印がなかったのです。

 

 

 

ここで担当者は知ることになります。

 

 

№2は

 トップは否認すると想定し

  自らの立場を賭した決断を下したことを

 

 

 

深い気遣い

遠きを慮る心

覚悟

 

それに気付かなかった未熟さ

 

 

 

新しい開拓

 その先の「あるべき姿」を実現するには

  会社統治や越権行為など

   所詮戯言しょせんざれごとでしかありません

 

 

そんな

規則ばかりが

前面に立つ経済など

発展するはずはありません

 

 

 

 

 

人間社会で

より良い状況を創り上げるには

人が人を活かす

そんな妙手が鍵を握ります