立身加増速き時は諸人敵となり、のうぢなし(注・効能がない、永続性がない)。遅き時は諸人味方になり、その上の幸は慥に見ゆるなり。畢竟、遅速共に諸人うけがひ候時は、危き事なし。諸人催促いたす時の幸が、のうぢあるなりと。〔聞書第十一〕
(出世、昇給の早いときには、周囲の人々が敵にまわってしまい。せっかくの幸運も何の価値もなくなってしまう。これに反して、出世の遅いものに対しては人々が味方となり、将来には確実に希望がもてるものである。
結局のところ、早かろうと遅かろうと、人々が十分納得するようであれば心配はいらない。人々から催促されたような形で掴んだ幸運というものは、非常に価値のあるものである。)
<出典:『葉隠』原著 山本常朝/田代陣基 神子侃編著 徳間書店>
お家における出世は
周りから引き立てられてこそ
効能や永続性があるとのこと
文武ともに優秀だからといって早く出世すると、必ず周囲の人に妬みや嫉みが生じてしまいます。
現代の社会でも全く同じです。
時間も労力も組織のために投入し、かつ業績も向上させ、加えて上位職から好まれれば、否が応でも引き立てられるでしょう。
幸いなことかもしれませんが、他者の妬みや嫉みから生じる障害を克服せねばなりません。
これを乗り越えれば、次の課題は本人自身の内面との対話となります。
引き立ててくれた上長に仕え続けるのが良いのか
“ 何が正しいかよりも
誰が正しいかに
関心を持つ者 ”
ドラッカーはこれを「真摯さの欠如」として定義づけ、マネージャーに不適格な者としています。
<出所:『ドラッカーに学ぶ人間学』佐藤等著 致知出版社>
他の上司につくか
はたまた、自分と組織の関係も見直すことになるかもしれません。
葉隠の時代には考えづらいのですが、今の時代なら退職することも選択肢の一つとなるでしょう。
しかしながら
転職してもあまり意味をなさないでしょう
迷い道をうろうろするだけ
一つの組織の価値観と相容れない人は、他の組織の価値観に共感することもほとんどないのです。
“ ぶんぶん(文々)と
障子にあぶの飛ぶみれば
明るき方へ迷うなりけり ”
<出典:『二宮翁夜話』福住正兄 原著
佐々井典比古 訳注 致知出版社>
(煌びやかな世界を求めること、それこそが迷いである:筆者による意訳)
自分の “ 道 ” を進むことこそが最善
今日の言葉の最後の一節「人々から催促されたような形で掴んだ幸運というものは、非常に価値のあるもの」、これは疑いようがありません。
腰を据え
大器晩成となることを
自らに課す
これが賢明
“ これ(湯ぶねの湯)を手で自分の方へかき寄せれば、湯はこっちの方へ来るようだけれども、みんな向こうの方へ流れ帰ってしまう。これを向こうの方へ押してみれば、湯は向うの方へ行くようだけれども、やはりこっちの方へ流れて帰る。
少し押せば少し帰り、強く押せば強く帰る。これが天理なのだ。
仁といったり義といったりするのは、向こうへ押すときの名前であって、手前にかき寄せれば不仁になり不義になるのだから、気をつけねばならない ”
<引用:同上 ~湯ぶねの教訓~>