貨物運送業界の6回目、「投資力」です。
取り上げる指標は、
営業CF対投資CF比率、各社の営業CFと投資CFの推移、ROIC、WACCです。
まずは、営業CF対投資CF比率です。
これは、投資CFを営業CFでどれだけカバーしているかを見る指標です。
100%以上であれば、投資CFを営業CFで完全にカバーしていることになります。
ちなみに、営業CFがマイナスの値を取る場合は、強制的に0%としています。
また、投資CFがプラスの値を取る場合は、強制的に100%としています。
〔営業CF対投資CF比率=営業CF÷投資CF〕
日本通運は、2019決算期において100%未満となりましたが、
2020、2021決算期のFCFは正の値となっています。
他の3社の直前期は、投資CFが正の値をとっているため、全て100%となっています。
それでは、各社ごとの営業CFと投資CFの推移をみていきましょう。
営業CFで投資CFを完全にカバーしている場合、
表内のFCF(フリーキャッシュフロー:営業CF-投資CFの値)が正の値になっています。
まずは日本通運です。
直前期が特徴的です。
営業CFは前年比で1.5倍近く、対する投資CFは前年比で約半減しており、FCFが大きく膨らみました。
直前期の営業CF増大は、税引前当期純利益が2倍以上になったことが大きな要因です。
投資CFの過去の推移は、毎年概ね900億円程度の支出となっています。
直前期においても、固定資産への投資が前年の1.4倍程度行われていますが、固定資産、投資有価証券、子会社株式の売却による収入が大きくなったため、投資CF全体の額が縮小した格好です。
次はヤマトHDです。
直前期の営業CFは、前年比で1.6倍強と大きく拡大しています。
投資CFは、過去の推移として500億円弱程度の支出がありました。
直前期も前年とほぼ同額の支出ですが、
貸付金の回収が980億円ほどあったことからプラスの値になりました。
続いて、SGHDです。
直前期の営業CFは、前年比で2.6倍強と極めて大きく拡大しました。
投資CFは、2019、2020と600億円強の支出を行っていました。
直前期の有形固定資産取得に要した支出は前年以上となっており、
投資CF全体としては、前年対比で1.1倍以上の支出増の状況だったのですが、
関係会社株式の売却で700億円弱の収入があったため、プラスの値になりました。
最後に日立物流です。
営業CFは、2020決算期で急増させましたが、直前期では3割ほど減少しました。
投資CFにおける有形・無形固定資産への支出は、
130~150億円程度で推移していましたが、直近では200億円近くまで増加させました。
ただし、直近では関係会社株式の売却による収入が870億円ほどあったことから、
プラスの値になっています。
そして、この影響により、FCFが営業CFを大きく超えるレベルに至っています。
なお、この関係会社株式の売却については、
SGHDおよび佐川急便との間の資本業務提携の一部変更に伴うものとのことです。
次の指標はROICです。
この指標は、経営に投下した純資産と有利子負債で、本業の儲けをどれだけ生み出したかを示します。
本業の儲けとは、営業利益から、不可避な費用としての法人税等を控除した額としています。
〔ROIC=(営業利益−法人税等)÷(純資産+有利子負債)〕
SGHDが最も高いレベルを維持しています。
第1回で示しましたが、売上高規模は4社中3番手ながらも、
営業利益の絶対額はナンバー1でした。
総資本営業利益率や売上高営業利益率もナンバー1であり、
本業の儲けの度合いは秀逸です。
2番手はヤマトHDであり、直前期で急上昇させました。
第1回で示した営業利益の絶対額では、SGHDに次ぐ2番目でした。
3番手は僅差で日立物流、そして日本通運となっています。
最後はWACCです。
この指標は、株主資本と有利子負債の調達コストがどれだけかかっているかを示します。
資本の調達コストとは、
株主資本については、配当金など投資家が期待する成果に該当し、
有利子負債については、社債や借入金にかかる支払利息が該当します。
これら資本の調達コストを分子として、分母は概ね前述のROICとなります。
以上から、このWACCの値が前述のROICを下回った場合、
本業の儲けが調達コストを下回っていることになり、
経済的付加価値を生み出せていないという意味になります。
なお、WACCについてのより詳細な説明は、建設業界-6を参照ください。
〔WACC=株主資本コスト×{ 株主資本÷(株主資本+有利子負債)}
+負債コスト(1-実効税率)×{ 有利子負債÷(株主資本+有利子負債)}〕
表内で、a)-b)として、〔ROIC-WACC〕の値を明示しています。
日本通運がマイナス値となっています。
SGHDが最も高いレベルであり、続いてヤマトHD、そして日立物流となります。
貨物運送業界は以上です。
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