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COLUMNSブログ「論語と算盤」

貨物運送業界-5

2021年12月13日

貨物運送業界の5回目、「資金力」です。

 

 取り上げる指標は、

     手元資金推移手元流動性比率手元資金有利子負債カバー率

総資本営業CF比率売上高営業CF比率です。

 

 

 では、手元資金推移から。

 

 手元資金は下記の計算で求めていますが、取り上げた4社は全て、流動資産に計上する有価証券(短期保有目的)がゼロとなっています。

 

 よって、4社とも現金預金、あるいは現金及び現金同等物の期末残高となります。

 

〔手元資金=現金預金+有価証券(短期保有目的)〕

 

 ヤマトHDの手元資金は、売上№1の日本通運よりも大きくなっています。

 

 日本通運は、20182020.03期の3期連続で、

キャッシュフロー自体が減少していました。

一定の投資に対する営業CFが十分ではなかったため、

手元資金が減少したものと想定されます。

 

しかし、直前期の2021.03期は純利益を大きく計上し、

      投資面でもプラス要因があったため、

キャッシュフローは大きく改善し、現金預金が拡大しました。

 

 日立物流は、直前期で減少しました。

この要因は、売上債権等の増加もありますが、

最も大きいのは法人所得税の支払いがかさんだことです。

 

 SGHDは、比較的安定していますが、4社中で最小となります。

この金額が妥当かどうか、これだけでは見定められないので、次の指標を参考にしてみましょう。

 

 

 手元流動性比率です。

 

これは、先ほどの手元資金が、

日商(売上高÷365日)の何日分かという指標です。

 

〔手元流動性比率=(現金・預金+有価証券)÷(年商÷365)〕

 

 日立物流がトップで、直近の3期は

概ね2ヶ月分(60日)ほどで推移しています。

 

2番手のヤマトHDは、現状は安定的と映り、45日分程度で推移しています。

 

3番手の日本通運も、30日分程度と安定的な推移です。

 

最下位は、先ほどの金額ベースでの順位と同じくSGHDです。

3期連続の減少となっており、売上高は伸びているものの、

現金預金の増加率が追い付いていないという状況のようです

 

一般的な事業の場合、企業が成長する、

つまり売上高が伸びるときには、キャッシュが減少傾向になります。

SGHDについても、そんな現象が生じているのかもしれません。

 

 

 続いて、手元資金有利子カバー率です。

これは、手元資金で有利子負債をどれだけカバーしているかを示しており、100%以上の場合は実質無借金経営とみなされます。

 

〔手元資金有利子負債カバー率=(現金・預金+有価証券)÷有利子負債〕

 

 ヤマトHDが大きく抜きん出ています。

直前期の2021.03期では700%超と極端に大きいため、グラフに収めませんでした。

有利子負債がかなり少なく、社債はゼロ借入金は340億円ほどという状況です。

 

残る3社は、グラフの形状からはあまり変動なく見えますが、

数値を確認すると割と上下動していることがわかります。

 

ただし、実質無借金経営でなくてはならないという理由もなく、

現状では特段の問題は無いと言えるでしょう。

 

 

 次は、総資本営業CF比率です。

これは、経営に投下した総資本で、営業CFをどれだけ生み出したかという指標になります。

 

 総資本は第1回で確認済であり、4社とも、大雑把に言えば横ばいという状況でした。

にもかかわらず、このグラフが乱高下するということは、

指標の分子に当たる営業CFの変動が大きいということになります。

 

 利益率や自己資本比率などに対するマネジメントは多くの会社でしっかりやられているでしょうが、キャッシュフローに関するマネジメントはそこまでのレベルに至っていないという状況が垣間見られます。

 今まで見てきた他の業界も踏まえ、少なくとも私はそう感じています。

 

 では、指標に戻ります。

 

〔総資本営業CF比率=営業CF÷総資本〕

 

2019.03期までは、4社の動向がバラバラのように見えますが、

        2020.03期でどういうわけか一定レベルに収束し、

そしてまた2020.03期では各社各様、という推移に見て取れます。

 

2020.03で落ち込んだ2社(SGHDとヤマトHD)の状態は以下です。

 

SGHD:有価証券報告書によると、営業CFの最大のマイナス要因は「その他」となっており、これ以上のコメントはありませんでした。

 

ヤマトHD:営業CFの構成要素中、「法人税等の支払額」が前年の2倍以上になったこと、および「仕入債務」の減少という2項目が、主だったマイナス要因です。

 

日本通運は、2019.03期で一旦落としましたが、それ以降2期連続で上昇しています。

 

日立物流は、2020.03期まで2期連続で増やしましたが、

直前期の2021.03期では下降しました。

 

 

 最後に、売上高営業CF比率です。

先ほどの指標の分母を、総資本から売上高に変更したものとなります。

 

〔売上高営業CF比率=営業CF÷売上高〕

 

 総資本営業CF比率と同じような推移ですが、

各社をそれぞれ個別に見ると、かなり変動しています。

 

そして、2021.03期においては、

どういうわけか4社とも79%程度に収束しています。

 

 ここでも日立物流2020.03期が気になります。

これは前回同様、IFRS第16号「リース」適用の影響とのことです。

この摘要により、「減価償却費及び無形資産償却費」として、

530億円弱がキャッシュ・インとして計上されたことが最大の要因です。

結果、営業CFは、前年380億円弱から780億円強と、2倍以上に拡大しました。

 

 

 

今回は以上です。

  

次回は、「投資力」を見てみます。

 

 

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