貨物運送業界の2回目です。
今回は、「利益創出力」です。
指標は、総資本営業利益率、売上高総利益率、
売上高営業利益率、売上高当期純利益率です。
日立物流が採用しているIFRSには経常利益の概念が無いので、
営業利益を軸に据えています。
最初に、総資本営業利益率です。
〔総資本営業利益率=営業利益÷総資本(負債+純資産)〕
SGHDが断トツトップであり、直前期でさらに伸ばしています。
続いてヤマトHDであり、こちらは4.4ポイントも拡大させています。
他の2社との混戦の中から抜け出した感があります。
日本通運と日立物流についても、
ともに1ポイント前後伸ばしており、良好な推移と言えます。
前回述べたように、SGHDは営業利益を対前年比134.8%も増やし、
他方、総資産(=総資本)の伸び率は102.3%であった結果です。
同様にヤマトHDは、営業利益を対前年比206.1%と2倍以上に拡大し、
さらに総資産については伸び率99.0%と減少させた結果、急上昇を描いています。
続いて、売上高総利益率を見てみましょう。
〔売上高総利益率(粗利益率)=売上総利益(粗利益)÷売上高〕
直前期においては4社とも上昇させています。
売上高が低下した日本通運と日立物流も、
コスト削減が奏功したようで、粗利益率としては上昇しています。
ただしよく見ると、ヤマトHDを除いて、
直前期の伸び率は1ポイント前後とそれほど大きくありません。
ここに費用構造の違いが見て取れます。
前回示したように、ヤマトHDの従業員の多さは圧倒的です。
よって、繁忙期でもほぼ自社独力で対応できる状況が察せられます。
(外注の利用度合いがかなり少ない)
直前期は、取扱量が増大して売上高が増えたわけですが、
原価の増え幅については、ほとんど無いか相対的に極小のため、
粗利益が急増するという構造なのです。
他の3社は、ヤマトHDに比べて従業員数が少ないため、
有価証券報告書にも平均臨時雇用者数が記載されています。
つまり、繁忙期には、人も車も外注するようなイメージであり、
売上高の増加は原価の増加も誘うわけです。
売上高上昇と原価上昇が同時に生じるため、
ヤマトHDほどの粗利益率の上昇にはならないものと考えられます。
次は、売上高営業利益率です。
〔売上高営業利益率=営業利益÷売上高〕
直前期では4社とも伸ばしています。
SGHDは、売上高を111.8%伸ばし、営業利益を134.8%伸ばしており、
結果として1.4ポイントの営業利益率拡大となりました。
それに対して、2番手の日立物流は対照的です。
・売上高の直近2期の伸び率は、94.8%→97.0%と下げています。
・これに対して原価も、93.9%→96.3%と下げています。
・そして販管費も、99.1%→96.8%と下げており、
総じてコスト削減という方法論で営業利益率を上昇させたことになります。
3番手のヤマトHDは、営業利益率を2.7%から5.4%へと、
倍増(という表現が正しいかは別として)させています。
このメカニズムは、前述の費用構造の違いで述べたとおりです。
ヤマトHDは、固定費ビジネスの特性が強く顕在化するビジネスモデルです。
思い返せば1980年代後半、私はまだ学生でしたが、新聞やニュースで「重厚長大産業から軽薄短小産業へ」という声をよく聴きました。
この時代までは、ほとんどの産業が変動費ビジネスだったように感じます。たとえば建設業では、大忙しで売上が上がっても、売上に付随する費用(材料費や外注費など)が比較的大きいため、利益率は簡単には上昇しません。もちろん固定費は一定ですから、売上上昇とともに利益率も上昇しますが、大きくはありません。
この時代に対して、Windowsが出現した1990年代後半あたりから、固定費ビジネスが隆盛してきたように思います。固定費ビジネスは、ソフトウエア業界、ジムなどのスポーツ施設関連、警備会社等セキュリティ産業関連、レジャー・アミューズメント産業などが代表格です。近年元気な産業界とも言え、成長期から成熟期へ移行した経済では、産業界の収益構造も相違するものと感じます。
話を戻して、日本通運は4%を切った推移であり、やや苦戦している状況のようです。
2038年の創立100周年に営業利益率5%超を目標としており、
2024年3月期には4%、2029年3月期には5%というマイルストーンを掲げています。
最後は、売上高当期純利益率です。
〔売上高当期純利益率=親会社の所有者に帰属する当期利益÷売上高〕
トップのSGHDと3番手のヤマトHDが、平行移動したような形状になっています。
(ほぼ水平状態から、直前期で急上昇)
2番手の日立物流は安定的に3%台を推移しており、
日本通運は上下していますが、低いレベルに留まっている状況です。
今回は以上です。
次回は、「稼ぐ力」を見ていきましょう。
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