家電量販業界の5回目です。
今回は、手元資金とキャッシュフロー、言うなれば「資金力」がテーマです。
まず、手元資金の推移を見てみます。
その前に、手元資金とは「現金・預金」勘定と
短期保有の「有価証券」勘定の合計額をさします。
そして、今回分析している4社は全て、
短期保有の「有価証券」勘定がゼロとなっています。
よって、手元資金はすなわち「現金・預金」勘定そのものとなります。
2020.03期までは、経営規模の大きさからヤマダHDが最大でしたが、
直近ではビックカメラが(2020.08期決算)最大となりました。
先回も述べたように、ビックカメラは長期借入金の増額により現金・預金を増大させています。
ところで、ここまでビックカメラは現金が必要なのでしょうか。
従来の水準より格段に多くなっています。
平常時であれば、借り過ぎと受け取られるかもしれません。
しかしながら、現状が平常時と言い難い状況であることも事実です。
コロナ禍による都心部の店舗の不振がまだしばらく続くという想定から、
手元資金を厚くしておこうという思惑かもしれません。
次に、手元流動性比率をあげます。
これは、決算時点で日商の何日分の手元資金を有しているかを表したものです。
〔手元流動性比率=(現金・預金+有価証券)÷(年商÷365)〕
小売業は現金商売です。
仕入代金は信用取引(掛仕入)のため、支払いには1ヶ月程度の猶予があるでしょう。
それに対して売上代金は、販売と同時に入金となる代引取引です。
(前回述べましたが、キャッシュレスの販売では、入金が遅れるケースもあります)
以上から、適切な売上が得られているのなら、
現金が枯渇することは通常ではあり得ないと考えられます。
よって、製造業や建設業のように数ヶ月分の現金は必要ないと言えます。
4社を見ると、ビックカメラは前述と同様にグラフから見ても急増していますが、
それでも50日分強(1.5ヵ月強)です。
他の3社も直近で増加させていますが、2~3週間分程度です。
ところで、現金の保有高については、明確な基準はありません。
多い方が企業を運営する側は安心と言えますが、
上場企業の場合は投資家の目線もあります。
必要以上と思われる現金保有の状態は、好ましく受け取られません。
現金を上手く活用して業績を上げることで、
配当金の増大や株価上昇が求められることになります。
次に、先ほど確認した手元資金が、有利子負債をどの程度カバーしているかを見てみます。
つまり手元資金有利子負債カバー率です。
有利子負債とは、大きく、社債、借入金、リース債務となります。
(他に、短期の社債であるコマーシャル・ペーパー、転換社債なども該当します。)
〔手元資金有利子負債カバー率=(現金・預金+有価証券)÷有利子負債〕
この値が100%以上の場合、実質無借金経営となります。
具体的に言うと、保有する手元資金で、
今日にでも有利子負債の全てを完済できるからです。
今回は、4社全てが100%未満であり、実質無借金の状態ではありません。
ただし、ヤマダHDを除く3社は、有利子負債の3/4以上をカバーしている状態です。
次に、営業キャッシュフロー(CF)の創出力を見てみましょう。
総資本営業CF比率と売上高営業CF比率です。
まず総資本営業CF比率です。
これは、経営に投下した総資本を活用して、
どれだけの営業キャッシュフローを生み出したのかという比率です。
キャッシュフローは営業CF、投資CF、財務CFの合計となりますが、
投資CFはほとんどキャッシュ・アウトとなる項目であり、
財務CFは借入や増資など自力創出以外の資金調達です。
つまり、キャッシュフローの創出力は、
営業キャッシュフローによって表されるわけです。
〔総資本営業CF比率=営業CF÷総資本〕
各社各様ですが、直近ではなにやら収束してきているような印象です。
比率が高い、つまりCF創出力が高いのはケーズHDです。
逆に最も低いのがヤマダHDとなります。
では続いて、売上高営業CF比率です。
〔売上高営業CF比率=営業CF÷売上高〕
前回の建設業界の分析時もそうでしたが、前述の総資本営業CFと似たようなグラフ形状です。
ただ、よく見てみると順位が変わっています。
ケーズHD、ヤマダHD、ビックカメラ、エディオンという順になっています。
ヤマダHDは、総資本が大きいため総資本営業CF比率は低くなりますが、
売上高で見た場合は、他社に見劣りしないCFを創出していることがわかります。
今回は以上です。
次回は、6回目で最終回の予定です。
投資面にフォーカスした内容、言うなれば「投資力」を見てみましょう。
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