家電量販業界の最終回、6回目です。
今回は「投資力」を確認してみます。
まずは、営業CF対投資CF比率です。
これは、営業CFがどれだけ投資CFを賄っているのかを表します。
100%未満なら、営業CFより投資CFが大きいことを示し、
営業CFで投資CFが賄いきれてないことになります。
〔営業CF対投資CF比率=営業CF÷投資CF〕
2018.03期と2019.03期は、4社とも安定しているように見えます。
ただし、2020.03期からは各社にそれぞれの変動が生じました。
この値が100%以上の場合、フリーキャッシュフロー(FCF)がプラスになるので、キャッシュ的には安定します。
その一方、今後の業績に影響を及ぼす投資面がおざなりというのなら、それはそれで問題です。必要な時には、投資CFが営業CF以上になることもあってしかるべきです。
では、各社の動きを見てみましょう。
(ヤマダHDのみ、縦軸の目盛りが違っています。)
ヤマダHDは、営業CFが前年の2倍近くになっており、
投資CFも前年比で1.8倍ほどに増やしています。
※なお、投資CFはマイナス表記なので、下方に行くほど多額となります。
ビックカメラは直近で業績が悪化しました。
それでも当期純利益を生み出した上で、大きな在庫削減を行っており、減価償却費による一定のキャッシュ・インもあった結果、前年の4倍ほどの営業CFを生み出しています。
一方、投資CFは前年の1.4倍程度と、過去に比して大きな動きは見られません。
ケーズHDは営業CFを前年より若干落としましたが、
投資CFでは4社中最大額の191.6億円を支出しています。
エディオンは営業CFを前年の1.7倍としましたが、
投資CFは80億円程度に留めています。
今後は、vsコロナ、withコロナ、afterコロナなど、未来をどう想定するか、
いずれにおいても従来とは違う戦略となるでしょうから、
各社とも今期以降の投資CFは多様で比較的大きくなるかもしれません。
次にROICを見てみます。
ROICは前回の建設業界の第6回目で説明しましたが、
「投下した資本で、本業の利益をどの程度生み出したか」という指標です。
・本業の利益とは、
営業利益から、不可避のコストとして法人税等を控除したものとします。
・投下資本は、自己資本としての純資産に
他人資本としての有利子負債を加えたものとします。
計算式は『本業の利益を、投下資本額の何%生み出したか』であり、
値が大きいほど投下資本を効率的に活用していることになります。
〔ROIC=(営業利益−法人税等)÷(純資産+有利子負債)〕
ケーズHDの値が最大、エディオンと僅差ながらヤマダHDが続きます。
ビックカメラは、前年比で営業利益を46%ほど落とした上に、
長期借入金という有利子負債が増えたため、大きく低下しました。
ところで、たとえROICの値が大きくても、
有利子負債の金利(支払利息率)や株主配当が大きいと、
実質的には利益を生み出せていないことになります。
具体的に言うと、ROICが仮に15%としても、投下資本の調達コストが20%かかっているのなら、〔営業利益-法人税等〕で資本コストを賄えていない状態となります。
そこで、資本コスト(WACC:Weighted Average Cost of Capital
・・・加重平均資本コスト)との比較を行なうことが必要となります。
資本コスト(WACC)の算出は次のように複雑になります。
WACC=株主資本コスト×{ 株主資本÷(株主資本+有利子負債)}
+負債コスト(1-実効税率)×{ 有利子負債÷(株主資本+有利子負債)}
・右辺第一項の株主資本コストとは、
平たく言うと配当金のようなイメージであり、
株主が期待するリターンとなります。
・第二項の負債コストとは、
有利子負債にかかってくる金利(支払利息)です。
なお、この負債コストは支払利息という費用であることから、
節税効果を考慮するために(1-実効税率)を乗じて計算します。
[WACC算出に使用した各種データ]
株主資本コスト:リスクフリーレート+β値×リスクプレミアム
リスクフリーレート・・・0.483%(財務省 HPより、R3.3.31現在の20年物国債利回り)
β値・・・各社の値について、ロイターの指標にて
リスクプレミアム・・・6.9%(「企業のための資本コスト試算マニュアル
~CAPM 編 ver.1.0~(2020 年 6 月 24 日)」明田雅昭著 公益財団法人 日本証券経済研究所より)
株主資本:各社について、ヤフーファイナンスの参考指標の時価総額にて
負債コスト:各社の有価証券報告書の「社債/借入金明細表」より加重平均にて
有利子負債:同上資料より、社債と借入金の合計額にて(リース除く)
実効税率:各社の連結損益計算書より、「法人税等÷税引前当期純利益」にて
4社のWACCを算出し、ROICと比較したものが下表です。
両者の差が大きいほど、大きな経済的付加価値を生み出していることになります。
・ケーズHDが最も良好となります(両者差=6.6pt)。
・次いでヤマダHD(同=3.0pt)ですが、
ケーズHDと比較するとかなりの差があります。
・その次のエディオンも両者の差はプラスです(同=2.1pt)。
・ビックカメラのみ、業績悪化の影響で
ROICがWACCを下回ってしまいました(同=△1.8pt)。
以上、家電量販業界の売上高トップ4社を比較してきましたが、
経営規模はヤマダHDが最大であるものの、
内容面ではケーズHDの良好さがうかがえます。
エディオンに関しては、巣ごもり需要やテレワーク需要を
上記2社ほどには取り込めなかったようです。
ビックカメラは、立地条件が裏目に出て、
コロナ禍で変化した需要を取り込めずに苦戦した様子がうかがえます。
今後は、ワクチンの効果や薬の開発・流通などにより、
需要の量的・質的な面がさらに変化する可能性もあるでしょう。
それらをいかにして獲得するか、もしかすると大きな分かれ目になるかもしれません。
以上で、家電量販業界を終了します。
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