建設業界の5回目です。
今回は、資金について見ていきます。
具体的には、手元資金の動向と営業CFの創出力となります。
手元資金とは、現金・預金と売買目的有価証券の合計です。
売買目的有価証券とは、
流動資産中の当座資産に計上される有価証券の勘定であり、
短期的な運用益を得るための株式、社債、国債等となります。
有価証券は速やかに現金化できるため、
現金と同レベルの流動性を有し、
そのため手元資金という概念にくくられます。
それに対して、顧客企業の株式など取引上の理由から保有する株式や、親子関係にある会社の株式などのように、短期的な運用益を目的としない株式もあります。
これらは固定資産中の「投資その他の資産」における投資有価証券や関係会社株式などの勘定として計上されることになり、手元資金の範疇には入りません。
つまり、同じ株式や社債でも、
保有目的が違えば、計上される場所も変わってくるわけです。
では、各社の手元資金の推移を示します。
絶対額で言うと、大成建設が最も多く、他の3社に大きな相違はありません。
ちなみに、直前期に増加させたのは大成建設と鹿島建設であり、
大林組と清水建設は減少しています。
次に、その手元資金が日商(年間売上高÷356日)の何日分なのかを表す
手元流動性比率(日)を見てみます。
絶対額が大きい大成建設は、約121.9日、つまり4ヶ月分の手元資金を有しています。
以下、清水建設が69.2日、鹿島建設が61.3日と、2社が2ヶ月分超、
大林組は54.3日分となっています。
手元資金が日商の何日分あればベストかというは、明確な指標はありません。
例えば小売業では、掛けで仕入れて現金で販売するため資金効率が良く、手持ち現預金が少なくても資金繰りに行き詰まるリスクは小さく見積もられます。
一方、卸売業や製造業などでは、売上債権の回収に時間がかかり、また保有する在庫にも資金投下が必要なため、資金繰りのリスクが小さいとは言えず、手持ちの現預金は多い方が安心です。
前回の第4回で見たように、建設業の売上債権回収期間は比較的長期であり、
4社とも100日を超えています。
在庫回転期間も30日程度あり、仮に仕入債務支払期間が45日であったとしても、
〔売上債権回収期間100日+在庫回転期間30日
-仕入債務支払期間45日=85日(=2.5ヵ月)〕となり、
2.5ヵ月程度の資金負担が生じる事業構造であろうことが想定されます。
※上述の〔売上債権回収日数+在庫回転率-仕入債務支払期間〕で示される日数は、
CCC(Cash Conversion Cycle:現金化期間と呼ばれる指標です。)
巷では月商2~3ヶ月分程度の手元資金が望ましいという話もありますが、まあそんなところかもしれません。
ただし、上場企業の場合は、現預金や売買目的有価証券を多く持ちすぎると、資金活用能力が弱いと、物言う株主(アクティビスト)から批判されかねません。
この辺のサジ加減はケースバイケースで、そのときの経済情勢にも左右されるでしょう。
次は、手元資金有利子負債カバー率です。
これは、手元資金が、長短借入金、社債、コマーシャル・ペーパーなどの有利子負債をどの程度カバーして(賄って)いるかを示す指標です。
100%以上の場合、すぐにでも有利子負債を返済できるということで、
「実質無借金経営」と呼ばれます。
つまり、 100%に近いほど、資金繰り的には安全な状態と言えます。
清水建設を除く3社が実質無借金経営の状態であることがわかります。
特に大成建設のカバー率は200%超であり、もはや借金に頼ることなく、自社創出のキャッシュフローだけで事業展開が可能な状態と言えます。
次に、営業キャッシュフロー創出力を見てみましょう。
営業CFを生み出してこそ、投資が可能になり(投資CF)、借入金の返済や株主への配当も可能(財務CF)になります。
よって、営業CFは大きければ大きいほど望ましいと言えます。
総資本営業CF比率は、経営に投下した総資本で、どれだけの営業キャッシュフローを生み出したかを表します。
売上高営業CF比率は、売上高からどれだけの営業CFを生み出したかを示します。
両者のグラフ形状はほとんど同様なので、以下に連続して掲示します。
意外なのは、大成建設です。
各売上高利益率、EBITDAマージン率、手元資金(絶対額)、手元流動性比率などで抜きん出た実績でしたが、上記2つの営業CF創出力では低いレベルになっています。
もっとも、2018.03期のレベルは極めて高くなっており、それからは手元資金をあまり減らさず運営してきたのかもしれません。
ところで、4社とも2019.03期に営業CF創出力が大きく低下していることがわかります。
大成建設と清水建設に至っては、営業CFがマイナスになっています。
これは、各社とも、売上債権や棚卸資産の残高が増えたためです。
2020年のオリパラ需要による売上高は大きかったでしょうが、その分、決算日(2019.03月末)における売上債権の未回収部分が大きくなったようです。
さらに、仕掛中の工事も決算日をまたぐため、それに伴う未成工事支出金や販売用不動産の残高も膨らんだ結果のようです。
次回は、投資の動向、そして投資で得たリターンの大きさなど、
「投資力」について見てみましょう。
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