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COLUMNSブログ「論語と算盤」

道を志す者の七見識~濶大の識

2024年3月5日

人情の識有り、物理の識有り、事体の識有り、事勢の識有り、事変の識有り、精細の識有り、濶大かつだいの識有り。此れ皆兼ぬべからざるなり。而して事変の識は難しと為す、濶大の識は貴しと為す。〔濶大〕

(やっぱり大事なものは濶大の識。小さいことに拘泥しないで大まかに論断・決断する識であります。精細な識を持ちながら部分部分や枝葉末節にとらえられないで、よく全体を把握して決断する。全体がわからなくては何にもならないわけです。

 従って、「此れ皆兼ぬべからざるなり。而して事変の識は難しと為す、濶大の識は貴しと為す」 ― 七つの識はみな大事なものばかりであるけれど、これをすべて兼ね備えるということはできない。そしてその中でも一番難しいのは事変の識であり、一番貴いのは濶大の識であるというのであります。)

<出典:『呻吟語を読む』安岡正篤著 致知出版社>

 

 

 

 

濶大の識

大局観から決断する

貴い識

 

 

 

安岡師は、この書の中で政治に対して次のように憂いています。

 

「今日の日本の政界は部分的にはいろいろ動きがあるけれども、どうも全機的な力が弱い。要するに政治に有力な指導性がなくなっておることが大きな原因である。

これが今日の政治の実相でありまして、これも一つの事体の識であります。」

 

 

 

64代内閣総理大臣の田中角栄は、日本列島改造論を1972年に発表しましたが、この年の支持率は70%前後(出所:Wikipedia)であったそうです。

 

列島改造という一国の方向性の明示は、大局観からの決断と言っても過言ではないでしょう。

 

 

 

 

我が国は1955年あたりから、第二次産業への注力で高度経済成長の時代を歩んでいました。

 

このとき、東名阪の三大都市圏を中心に、周辺都市にも経済的豊かさと賑わいが波及していきました。

 

反面、取り返しのつかない公害の発生、それを起因とする事件や事故なども多数生じています。

 

 

大きな括りの産業構造体は、良しにつけ悪しきにつけ、そのパワーや影響力が強大となります。

 

 

 

 

その後の20世紀終盤から

 徐々に人々の関心は

  細分化していきます

 

 

 

現在、我が国産業の中心はサービス業であり、産業別GDPでは30%超と断トツのトップです。

(内閣府2022年度国民経済計算をもとに筆者算出)

 

ただし、その担い手の大半は中小零細組織です。

 

例えば、洋菓子店や洋食店、掃除サービスやリフォーム業、法人向けではコンサルタント業などです。

 

 

これらサービス業のうち、インターネットの活用が少ない部類の職種では、小さい規模の市町村・都市では事業が成立しづらく、勢い大都市集中型になってしまいます。

 

 

例えば東京都心であれば、裏通りであったとしても、行列を生む人気店になれる可能性があります。

 

そうなれば収益が期待できますが、大都市以外で行列ができる繁盛店はまれです。

 

夢を実現したい若者が、市場の大きい大都市に向かうのも当然と言えます。

 

 

 

一方で、このようなモデルでは組織拡大・業容拡大が見込めないのも事実です。

 

経済的波及効果は、現時点では限られた範囲にしか生じません。

 

 

 

 

産業が細分化するほど

 大市場としての大都市へ

  必然的に人口が集中する

 

このことは、地方の過疎化にブレーキをかけるには極めて困難な時代であることを示しており、今後も続くでしょう。

 

 

 

 

他方、大局的見地からは不思議な現象とも捉えられます。

 

 

熱力学の第二法則「エントロピー増大の法則」によれば、秩序あるものは無秩序な状態に変化し、その逆はあり得ないとされています。

 

 

しかし、述べてきた大都市一極集中という現象は、地方にあったエネルギーを徐々に他へ分散させる反面、大都市例えば東京という一ヶ所へ集中させており、ここではエネルギーが集合・集約されていると言えます。

 

 

この現象は、小さい島国、その島から出ていくのが面倒という地理的条件を持った、我が国の特性によるものかもしれません。

 

 

 

我が国の今後の可能性を大局的に捉えたとき、悲観ではなく、逆に新しい展開へ進んでいる最中なのかもしれません。

 

 

 

 

 

七見識

 

その中でも特に

事変の識と濶大の識

 

心得ておきたい “ 識 ” です