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COLUMNSブログ「論語と算盤」

始まりには知恵を

2024年1月26日

しゅうけつもとよりかたしとす。しかれどもしょまたつつしまざるからず。起処ならざれば、すなわち収結まったからず。〔晩二五六〕

(物事を締めくくるのはもとより難しいものだが、物事を始めるときもまた慎重でなくてはいけない。始まりが正しくなければ、終わりを全うすることはできないものだ。)

<出典:『言志四録 佐藤一斎』渡邉五郎三郎監修 致知出版社>

 

 

 

 

自分の考えは主観

 

自分以外の全ては客観

つまり外的諸条件

 

 

 

物事の締めくくりを自分で描いても、自分の外にある様々な条件、例えば他者の思惑、時の流れ、新しい価値観や制約の出現、天候や自然災害などによって、想定どおりに進められなくなる可能性があります。

 

 

そんな環境下においては、核心を捉えた正しい考え方でこそ、うまく締めくくることができます。

 

なぜなら、もっとも厄介なのが人の心であり、それを乗り越えられるものが “ 道理 ” 、つまり核心だからです。

 

多くの人の納得と賛同を得られる方法で、終局に向けて取り組むことです。

 

 

 

 

そして始まり

 

 

表面的な勘定だけで始めてはいけません。

核心を捉えた正しい考え方、やり方で始めなければ、物事はうまく進められませんし、締めくくりもうまくできません。

 

 

 

 

安田財閥の創始者である安田善次郎、あるとき水田を買ってほしいという申し入れがありました。

 

その提示価格はかなり高額でしたが、収穫する小作米を安く見積もり、税金を考慮した結果、利回りとしては非常に良いことがわかりました。

 

そこで安田翁は現地視察に赴きます。

 

大きな案件なら、上位職の現地視察は当然のことです。

現地において、水田の地質や排水の具合など地理的条件を確認し、意思決定を下すのです。

普通なら、この程度が関の山。

 

安田翁はさらに踏み込み、核心に迫ります。

 

まず、その地の神社仏閣の状態を確認します。

神社仏閣が、たとえ小さくてもきれいに手入れされているのなら、その地に暮らす人々の天の恵みに感謝する宗教心、信仰心が厚いということがわかります。

そうであれば、地域の人々の誠意ある働きぶりが期待できます。

逆に神社仏閣が荒れているようなら、収穫は期待できないと見込まれます。

 

次に、小作人の家屋敷を覗きます。

家の中や周囲がきちんと片付けられており、小さい空き地でさえ大切にして何かを植えているようなら、土地を大切に扱う勤勉な小作人と判断できます。

逆に敷地内にゴミが散乱しているような家ばかりなら、良質な小作米は期待できないでしょう。

 

これらを観察して、良好であれば、続いて水田の地理的条件の確認となります。

 

順序は、神社仏閣や小作人の家屋敷の観察が先です。

重要視すべき核心の在りかは、利回りの計算や物件そのものにはないのです。

 

 

このような、慎重な思考かつ核心を掴む考え方こそ、間違いのない取り組み姿勢であり、安田財閥を発展させた裏付け、原動力なのでしょう。

 

<出所:『人生を創る言葉』渡部昇一著 致知出版社>

 

 

この姿勢と慎重さ

物事を始めるに当たっての

要諦となります

 

 

 

損得勘定は、“ 時務学 ” つまり “ 末学 ” の領域であり、当然検討すべき事柄です。

知識として把握しておくべき段取りと言えます。

平常時なら、この “ 時務学 ” の知識だけでも大きな問題は起こらないでしょう。

 

 

一方、物事を始めるときや締めくくるときには、“ 本学 ” である “ 人間学 ” の知恵が求められます。

 

 

受け身ではなく

能動的に自分の人生を創るのなら

“ 人間学の知恵 ” 

これを学ぶことです