勝茂公兼々御意なされ候は、奉公人は四通りあるものなり。急だらり、だらり急、急々、だらりゝなり。急々は申付け候時もよく請合ひ、事をよく調ふる者にて候。これは上々にてあり兼ねるものなり。福地吉左衛門などは急々に似たる者なり。だらり急は、申付け候時は不弁にて、事を調へ候事は手早くよく埓明かすものなり。中野数馬どもにてあるべし。急だらりは申付け候時は成程埓明き候が、事を調ふる事は手間入りて延引する者なり。これは多きものなり。其の外は、皆だらりゝなりと仰せられ候由。〔聞書第四〕
(勝茂公が常にいっておられたことだが、奉公人には四種類ある。「急だらり」、「だらり急」、「急々」、「だらりだらり」である。
「急々」とは、申しつけた時によく理解し、ことを見事に調える者で、最上だが、なかなかおらぬものである。福地吉左衛門(注・有馬陣に戦功あり)などは、まず急々に近いものだ。
「だらり急」とは、申しつけたときには、よく理解できぬようであっても、ことを調えるには手早く、立派にやってのけるものをいう。中野数馬などがこれであろう。
「急だらり」というのは、申しつけたときには、なるほど立派にひき受けるが、その後はなかなか手間がかかり、仕事の長引くもので、これは多い。
それ以外は、みな「だらりだらり」である。とのことであったという。)
<出典:『葉隠』原著 山本常朝/田代陣基 神子侃編著 徳間書店>
「急々」
組織の運営で最も有能とみなされるタイプです。
申しつけた時、つまり指示を出したとき、速やかに全貌を捉えることができます。
具体的には、上役が考える望ましい状態、情景などを理解し、そして共有し、予測可能な変化への対処も含めて勘所を掴みます。
その後の行動においても、指示内容を充分にくみ取った上で、速やかで抜かりのない準備、段取りを行います。
上役から見れば、これほど頼りになる右腕はいません。
確かに「急々」は稀な存在です。
ただし、視野、視点、思考回路、判断基準、価値観などは、上役と同じ水準であることが条件となり、変化や変革の意識は抑えねばなりません。
「だらり急」
個人的にはこのタイプが大きな人物に育っていくと感じます。
上役からの指示を多方面から捉えて思考を巡らすために、勘所を掴むには時間がかかります。
しかし、勘所を掴んだ後の行動は文句なしです。
多面的、多角的な視野と思考があるからこそ、様々な可能性を見出します。
前例に囚われることはなく
予測不能なことが生じても
次への糧に昇華させられる
この過程を経て「急々」になれば
まことに力強い
柔軟でありながら
揺るがない重心
このタイプも稀であり、どんな時代にも望まれるタイプです。
「急だらり」
最近よく目にするタイプです。
行動面が「だらり」なのは、勘所を掴めないからです。
理解が「急」なのは、いわゆるおりこうさんの思考回路、学校で習った通りの思考のステップと手順に基づくためです。
その思考回路で理解できない、手当てできない事象については、無視したり虚飾した別の事象にすり替えたりして、とりあえずの完成像を作り上げます。
上役から見れば、そんなにうまくいくのかと懐疑的になりますが、明確に不備を指摘することは難しく、また多くの人が同じ思考回路なものですから、賛同する空気が醸成されてしまいます。
しかし、過去の教訓、今の実態、人の感情などから遊離しており、さらに自らの経験も少ないことから、行動や準備がチグハグになり、ひどい場合には何も手を付けることができなくなります。
思考の領域が矮小であれば
たとえ場数を踏んでも
人は育ちません
多様な思考を持つ人物
芯から強い野武士タイプ
どんどん減ってきています
それに対して
生温いおりこうさんは増える一方
今後しばらく
荒っぽさを増すであろう世界情勢
そんな中
日本を蝕む「急だらり」
本当に未来が気がかりです