人情の識有り、物理の識有り、事体の識有り、事勢の識有り、事変の識有り、精細の識有り、濶大の識有り。此れ皆兼ぬべからざるなり。而して事変の識は難しと為す、濶大の識は貴しと為す。〔人情〕
(人情の識
人間は単なる知性の存在ではなくて、非常に微妙複雑な感情を持っておる。またいろいろな意欲というものがある。特に知性と感情とは非常に微妙な対照をなすもので、例えばパスカルなどは「理知が頭の論理であるのに対して、感情は胸の論理・心の論理である」というておる。
論理というものは大脳皮質の機械的働きに過ぎないが、感情は内面的・全体的な働きでまことに複雑・微妙である。従って同じ理でも頭の理と情の理とでは内容も質も違ってくるわけで、その情の理を理解するのが人情の識であります。これはいろいろ浮世の経験を積み苦労したものでないとわかりません。)
<出典:『呻吟語を読む』安岡正篤著 致知出版社>
人情
論理で計り知れない領域
人情は、人を良悪に分けることもありますが、終局的には人助けでしょう。
そしてその発現は、人によって全く違った様相になります。
組織を離れ独立した人が、ある人から教えられました。
曰く、「お世話になった人には、必ず “ 恩返し ” するように」と。
そこでその人は、仕事を紹介してもらった先輩に贈り物をしましたが、その先輩はその行為をたしなめます。
「仕事を紹介するのは、あなたの今後の発展への願い、そしてあなたに続く後輩を助けるという “ 恩送り ” をしてもらいたいからです」と。
ある日本文化が生み出した伝統産業を担う自営業者。
斜陽産業と称され、年々業容が縮小する中、自分の息子に会社員になることを勧めました。
息子はそれに従いましたが、やがて形式的で硬直的な会社組織に嫌気を感じ始めます。
そんなとき、父がやってきた仕事に可能性を感じさせられる事態に直面します。
そして息子は組織を辞め、父の元に帰ってきました。
父の態度はそこから一変、「見て盗め」と。
死に物狂いで学んだその礎、それがその後の事業の発展につながったとのこと。
論理的に考える人生
安定、無難、当り障りのない日々
それは白黒の景色
自らの二本足で立ち
自分の心の感情を軸として生きる
それは彩ある景色
表彰される人を
作り笑顔で
形式的に褒め称える人がいる
世間が称する
ろくでなしに
手を差し伸べる人がいる
人並み以上の生活水準を得て
一時的な安堵を覚える人がいる
金銭的に窮屈でも
徳のある
見識深い人物がいる
自分の生の真ん中に
何を置く
頭の理か
情の理か