直茂公の御壁書に「大事の思案は軽くすべし。」とあり。一鼎の註には「小事の思案は重くすべし。」と致され候。大事と云ふは、二三箇条ならではあるまじく候。これは平生に詮議して見れば知れて居るなり。これを前廉に思案し置きて、大事の時取出して軽くすることと思はるゝなり。兼ては不覚悟にして、其の場に臨んで軽く分別する事も成り難く、図に当たる事不定なり。然れば兼て地盤をすゑて置くが、「大事の思案は軽くすべし。」と仰せられ候箇条の基と思はるるゝなり。
(直茂公御壁書に「大事の思案は軽くすべし」とある。
石田一鼎は註でさらに「小事の思案は重くすべし」と言っておられる。
大事といえば、せいぜい二、三項目のことにちがいない。こうしたことは平常の間に検討しておけば判るはずである。したがって大事については前もって心にきめておき、その場に臨んでは簡単に態度を決めるべきものである。
これに反して、日ごろの覚悟が不足であれば、その場に臨んで簡単に判断をつけることができず、誤りを犯すことともなろう。大事なことについては前もって覚悟を決めておくようにというのが、このご教訓の基礎であろうと考えられる。)
<出典:「葉隠」原著 山本常朝/田代陣基 神子侃編著 徳間書店>
重要な事柄は日ごろから準備しておくべきであり、怠ると誤った判断や行動になることを誡めています。「日頃の覚悟」の重要性です。
「日頃の覚悟」が甘ければ、大きな禍を招きかねません。
東日本大震災に伴う原発事故、河川氾濫による浸水被害、人為的な盛り土を起因とする土砂崩れなど、大きな不幸につながってしまいます。
2020年に拡散した新型コロナの禍も、2003年に報告されたSARS(重症急性呼吸器症候群:中国広東省起源)によってパンデミックの危険性が認識されていたはずです。
しかし、適時適切な対応ができたかどうかというと、世界各国全員の覚悟が弱かったと言えます。
一人一人が、生命が脅かされる事態を想定し、
準備しておくことが求められる時代になってきているようです。
易経では、変化を察して速やかに対処することの重要性が示されています。
「君子は幾を見て作ち、日を終うるを俟たず。(繫辞下伝)」
(兆しがどんな結果を教えているかを知る者は、それを見てすぐさま行動し、
一日と置かずに処理することができる。~兆しを察したら素早く行動せよ~)
<出典:「易経一日一言」竹村亞希子著 致知出版社>
他方、小さい事柄については、生じたときによって諸条件が変化します。
そのため、一つ一つを丁寧に分析し、具体的で的確、精密で効果的な対策を講じることが必要です。
今回の題名にあげた「神は細部に宿る」という格言は、芸術、建築、仕事、さらには人間関係にまで当てはまります。
日本の城壁やピラミッドなどの建築物は、それぞれが緻密に積み上げられています。
それが欠けていれば、後世に残ることはなかったでしょう。
勝負の世界では、サッカーの日本代表監督を務められた岡田武史さんが次のように言われています。
「感覚的に、8割くらいは「小さなことが」が勝負を分けているように思うんです。
~中略~ 運を掴み損ねたくなかったら、どんな小さいこともすべてきちっとやれ、と。」
(引用:1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書 致知出版社)
おこがましさを承知で言うと、会社員時代、細部の重要性を強く感じた経験があります。
プロジェクトが大きいほど、製品の出荷段階から所定場所に設置されるまでの流れが重要になります。
そのため、出荷元の倉庫に対して貨物車に積み込む製品ごとの順番を指示したり、設置場所のエレベーターの機種や速度についてゼネコンの現場会議で確認させてもらったりしていました。
ゼネコンの現場監督には、何でそこまで必要なのかと笑われたこともあります。
しかし、確信をもってやり遂げたことにより、それは自信になりました。懐かしさとともに、自負心を感じられる経験でした。
これからもそんな心構え、心がけで色んな場面に臨みたいものです。
兆しを認識して大きな禍から身を守り、
細かさ、緻密さ、丁寧さを大事にして、日々を生き抜いていきましょう。