Loading

COLUMNSブログ「論語と算盤」

未来を創る

2023年8月8日

直茂公御側に、新参に御懇に召使はれ候者あり。或時、古老の衆申合はせ、御前へ罷出て、「今程何某を別けて御懇に召仕はるゝと相見え申し候。我々槍突き申し候時分、終に相見え申さず、先途の御用に相立候儀心得申さず候が、如何様の思召入にて御懇に召し仕はれ候や。」と申上げ候。直茂公聞召され、「如何にも尤もの存じ分にて候。彼の者先途の用に立ち申したる者にてもなく候へども、我等気に入り、心安く候故、尻をも拭はせ申し候。其方達には斯様の事はあつらへ難く候。槍突き候時は、其方達を頼み申す事に候。」と御意なされ候由。〔聞書第三〕

(直茂公側近に、とりわけ目をかけられている新参者があった。ある時、古参の人々が申し合わせ、御前に出て

 「近ごろ、某を格別に目をかけておられるごようすですが、われわれが戦場でご奉公をしておった時分には、ついぞ見かけなかった者、当時、お役に立ったということも聞いておりませぬ、どのようなおつもりで目をかけて召使っておられるのか、納得が参りませぬ」

 と申し上げた、直茂公はこれを聞かれて、

 「もっとものことである、あの者は、昔、役に立ったというわけではないが、気に入った故、気安く使い、雑用をさせているに過ぎない。その方たちにはそうした下らぬことをさせるわけにはいかぬ。いざ戦場での奉公となれば、その方たちに働いてもらわねばならぬのだから」

 といわれたということである。)

<出典:「葉隠」原著 山本常朝/田代陣基 神子侃編著 徳間書店>

 

 

 

 

長としての配慮

 

 

 

当時、世の中の変化から、古参の老武者では務まらない仕事が増えていたそうです。

 

殿様としても、重用すべき人物像が変わってきたことを感じていたはずです。

 

 

しかし

だからと言って

あからさまにそういう態度は

見せられません

 

老武者たちを遠ざけることなど

できるわけがありません

 

 

 いま、我々そして人々が

  安穏に生活しているのも

   彼らが命を捧げ

    血みどろになって戦い

     この国を守り抜いてくれた

      おかげなのですから

 

 

 

佐賀鍋島藩の藩祖である

鍋島直茂

 

両者の気持ちを十二分に汲み取って

対応しています

 

 

 

古参の者に対しては、その時代の価値観を共感し、彼らを納得、安心させています。

 

新参の者に対しては、これからの時代に備え、有能な者を引き立て育てようと試みています。

 

 

 

 古参の武士は

  戦場で命を賭して殿様に仕えてきたのです

 

 今後も真っ先に身を投げ出して

    国を守ろうとする覚悟も十分です

 

 そんな彼らも

  潮目の変化を感じ取っているはずで

   自らの身分を気にかけているのでしょう

 

 

 

 一方、新参者は

  いくさで成果を上げる機会が得られませんでした。

 

 だからこそ

  小さなことや雑用でさえ進んで対処し

   藩内での自らの立ち位置を

    築いていかねばなりません

 

 

 

この構造

現代とどこか似かよっているのでは

 

 

高度成長の真っただ中で

仕事に人生を投げ入れた人たち

 

弱体化していく経済状態の中で

光が見えないまま仕事をする人たち

 

 

 

今日の言葉は四百年以上前の話

 

人の歴史はただ繰り返されるだけか

 

 

 

繰り返すにしても

生きる環境の良化や

精神の向上が伴わなければ

それは単なる足踏みです

 

 

国そして人類を進歩向上させられるのは

傑出したリーダーの働きです

 

そして忘れてならないのは

そういうリーダーを生み出す土壌は

一人ひとりの意識そのものであることです

 

“ 誰か ” ではありません

私たちの未来を創るのは

“ 私たち自身の思い ” でしかないのです