人材を採用するに、君子小人の弁、酷にすぐる時は、却て害を引起すもの也。その故は、開闢以来、世上一般十に七八は小人なれば、能く小人の情を察し、その長所を取り、之を小職に用い、その材芸を尽くさしむる也。東湖先生申されしは、「小人程芸有りて用便なれば、用いざればならぬもの也。去りとて、長官に居え重職を授くれば、必ず邦家を覆すものゆえ、決して上には立てられぬものぞ」と也。
(人材を採用する時、君子と小人との区別を厳しくし、全てに優れた人物を求めて小人を排除しすぎると、かえって問題を引き起こしてしまう。
その理由はこの世が始まって以来、世の中で十人のうち七、八人までは普通の人であるから、よくこのような凡人の長所を取り入れ、これをそれぞれの役割に用いて、その優れたところ、才能や特技を十分発揮させることが重要である。
藤田東湖先生がおっしゃったことがある。
「小人ほど、細かな特技、一芸に秀でているところがあって仕事をさせるに便利であるから、その器量に応じて仕事をさせなければならない。だからといって、これを上司にして重要な職務に就かせると、必ず組織や国を滅ぼしてしまうようなことになりかねないから、決して上に立ててはならないものである」と。)
<出典:「西郷南洲遺訓」桑畑正樹訳 致知出版社>
人をいかに活かすかは、あらゆる組織にとって最重要問題です。
人は十人十色、百人百様ですが、組織人に対する私の感覚は、大きく次の2つに分かれます。
・待遇の良さや安定した職場を望む人
・自分を発揮できる環境を望む人
前者の際立った特徴は、仕事内容や仕事そのものよりも、職場への関心が高いということです。
ある程度満足できる職場環境であった場合、一定の戦力になることが期待されます。
ただし、自責よりも他責の念が強く、将来重用される可能性が低いと感じたら、より望ましい職場環境を求めて転職する可能性があります。
このような人物に対しては、今日の言葉のように、秀でた「一芸」を見つけ、それを発揮できる環境にしてあげるのが得策です。
基本的に受け身であるため、適材適所と満足し、リスキーな転職などを避けて安住を選ぶでしょう。
それに対して後者の特徴は、職場や組織へのこだわりは少なく、仕事そのものへの関心を高く持っています。
そして、自分が持つ「一芸」について、自分自身である程度気付いています。
自らこの「一芸」を軸に仕事を行うため、順境、逆境、共に並み以上の戦力になる可能性があります。
しかし、職場に対する愛着心は強くありません。そして何事も自責として捉えるため、自分の成長、自己実現、自分を一層高めるなどの動機で、自ら仕事場を変える可能性を持っています。
このような人物は、早めに上位職に就け、より厳しい環境に置き、その力量を十分発揮させることが効果的でしょう。
一方、上位職とすれば、以上のような適材適所の配置になるよう、配慮や工夫が求められます。
ただし、そこで問題になるのは、上位職自身が人物を見定める眼力があるかどうかです。
組織内に仲良しクラブを組成するような馴れ合い好きな者、自分の出世しか眼中になく部下に関心が低い者などは、上位職にしてはなりません。
仕事そのものに厳しくない者も同様です。
誤った登用は「蟻の一穴」と言われるように、組織の瓦解につながります。
大企業の不祥事が明るみに出てきている昨今、反面教師として心する必要があります。
人材の登用においては、慎重さが極めて重要です。
日ごろは明るくて話しやすく頼れる上司を演じつつも、
しっかりとメンバーを見定めなくてはなりません。
大小高低関わらず、どんな職場、どんな職位であれ、
組織を引っ張る者は、常に孤独、孤高であるべきです。