世人の唱うる機会とは、多くは僥倖の仕当てたるを言う。真の機会は理を尽して行い、勢を審かにして動くと云に在り。平日国天下を憂うる誠心厚からずして、只時のはずみに乗じて成し得たる事業は、決して永続せぬものぞ。
(世の中の人の言う機会、いわばチャンスとは、たまたま得た偶然の幸せのことを指しているのが大多数だ。
しかし、真の機会というものはそういったものではない。本当のチャンスというのは準備万端、合理的に考え尽くして行い、時の勢いをよく見極めて行動して、成功を手にする場合のことだ。
常日ごろ、国や世の中のことを心配し、憂える真心も誠意もなくて、ただ時のはずみに乗って成功した事業がもしあったとしても、それは決して長続きしないものである。)
<出典:「西郷南洲遺訓」桑畑正樹訳 致知出版社>
一般の機会やチャンスは偶然の産物
当の本人が驚く、予測できないもの
真の機会やチャンスは
準備して能動的に捉えるもの
では準備とは何でしょうか。
西郷さんは、国や世の中のことを心配し、憂える真心や誠意が必要とのことです。
もう少し日常的な視点から考えると、準備とは、人や物を大切に扱い感謝することと思います。
小さいころ、野球を始めたとき、親がグローブを買ってくれました。
高いものですから大事にしようと、日々磨き、抱いて寝たりしました。
道具を大事にしろと監督から言われたとき、その理由はこれだと思っていました。
しかし、その真意は違うところにあります。
道具を大事にする真の狙いは、道具と一心同体になるためです。
大事にすることで好きになり
丁寧に扱うことで思いを共有できる
やがてそれは自分の身体の一部になり
一緒に競技するパートナーになる
この飛球にはこうグローブを出せば捕れるというような、お互いの協力関係、共同作業で成果を得るのです。
こう心掛けていないと
低いレベルに留まってしまいます。
五輪メダリスト、重量挙げ女子日本代表の三宅宏実さんは、チャンスがあってもそれを掴めず、表彰台に立てない悔しさを何度も経験したそうです。
あるとき、バーベルを作る職人のところに出向き、一本一本手間暇をかけて作り上げる姿を見て、一層気持ちを込めて道具の手入れをやるようになったそうです。
そしてリオ五輪、後がない最後の3回目、
それに成功し、そのあとバーベルを抱擁しました。
「バーベルとコミュニケーションを取りながら、
バーベルと一体化しないと挙がらないと思います。」※1
うまくいったら、道具に感謝して喜びを分かち合うのです。
事業なら、やがて仲間が増えることもあるでしょう。
仲間は一緒に協力し合うパートナーですから、道具と同様に、丁寧に、大事に対応し、真の仲間にしていくのです。
これこそが、永続できる組織の生成の瞬間であり、発展の起点なのでしょう。
これを平凡な日常に当てはめるとこうなります。
自分の身の回りのもの全てを大切にして丁寧に扱うことで、全てが自分の身体の一部になり、協力体制が出来上がります。
自分の周囲の全てを味方にできるわけですから、日々が良くならないわけがありません。
道具と仲間を大切にし、世の役に立つ活動をしていくと、必ず機会やチャンスを感じられます。
目に見えてくるはずです。
そして、捉えたチャンスに丁寧に対処することで、ことはうまく運ぶでしょう。
どんな分野においても良い結果を得られるはずです。
偶然の機会は“ツキ”です。
世の中がうねることによって生じる波動と言えます。
もし巡り合ったなら、よく内容を見定めて、手に入れるか受け流すか選別すれば良いでしょう。
しかし、このような偶然の機会は頻繁には訪れませんし、一生巡り合うことがないかもしれません。
それに期待するのは愚かです。
人生を良くするのは決して難しくはないのでしょう。
周囲の全てを大切にして
感謝し
丁寧に扱う
そこから始まるはずです。
※1「1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書」藤尾秀昭編 致知出版社 七月1日より引用