多久美作※1殿老後に、家中の者へ無情無理の御仕方どもこれあり候故、誰か意見申し候へば、「長門※2がためなり。我が死後に枕を高くして緩りと休み申さるべし。」と答えの由。総じて家中を憐愍し、隠居前に無理の事共あれば、嫡子に家を譲り候時、家中の者、早く直代に思付くものにて候。これ秘説の由、或人の話なり。
(多久美作殿は老後になって家中の者に無理無情の仕打ちをなさることがあったので、ある人がご意見申し上げたところ「これもあとをつぐわが子のためである。自分が亡きあと、枕を高くしてゆっくり休んでもらおう」といわれたという。
先代が隠居する前に、家中の者に対して無理な仕打ちなどあれば、代がかわってから家臣たちは新しい主君(直代=主君)に早くなつくものであるというのだ。人伝えの秘話である。)
※1多久美作:多久茂辰、勝茂(佐賀鍋島藩の藩祖である鍋島直茂の子)の信任が厚かった臣。
※2長門:美作の子、茂矩
<出典:「葉隠」原著 山本常朝/田代陣基 神子侃編著 徳間書店>
先代が立派であるほど
後継者が背負う荷は重くなるでしょう。
先代が立派なままあの世に旅立たったなら、部下や家臣は悲しみに暮れます。
先代の名に恥じぬよう、頑張っていこうという思いが生じるものです。
ことがうまく運んでいるうちはそれで良いでしょう。
問題は、ことがうまく運ばなくなったときです。
あの立派だった先代の後継者、そのやり方に従えば良いという依存心が芽生える者も出ます。
一方、後継者のやり方は先代と違う、納得できないと、異を唱える者も出てくるでしょう。
心柱を失った家は揺らぎ始めます。
立派な先代が晩年に豹変し、無理無情な振る舞いで部下や家臣から嫌われたらどうでしょう。
他界したとき、部下や家臣は内心ほっとするかもしれません。
今後は後継者を立てて、先代を超えるような組織、家にしようと頑張るでしょう。
ことがうまく運んでいるうちは全く問題ありません。
ことがうまく運ばなくなったとき、部下や家臣は後継者を支えようと主体的に動くのではないでしょうか。
非情無情だった先代に負けるわけにはいかぬ、栄えさせて見せる、という意気込みがそうさせるはずです。
皆が相談し、協力し合い、進む方向性が収斂されます。
今日の言は秘話とのこと。
後継者が後々この秘話を耳にしたとき、先代の配慮、後継者教育の神髄に気づくでしょう。
その思いの深さに感銘を受けるに違いありません。
そしてそれが家風
その家の行動様式になっていきます。
会社なら社風
その社の行動様式になります。
あなたが家に上がるときに靴を揃えないのは
あなたがズボラというわけではなく
そういう家風で育ったからでしょう。
しかし、あなたが変われば、そこから家風が変わります。
家族の行動様式が変わります。
「自らまちがったことを平然とやりながら、こどもにだけよい子になれと望むことは、木によって魚を求めるたぐいで、とうてい不可能である。」〔五月六日〕
<出典:「平澤興一日一言」平澤興著 致知出版社>
ひとりが志高く変われば
家も変わり、組織も変わり
社会も変わり、世の中が変わります。
一燈照隅 万燈照国
<最澄>
一人一人が一隅を照らしていきましょう。
そうすれば必ず
この日本は
億万の燈で光り輝く国になるはずです。