子曰わく、参や、吾が道は一以て之を貫く。曽子曰わく、唯。子出ず。門人問うて曰わく、何の謂ぞや。曽子曰わく、夫子の道は忠恕のみ。
(先師が言われた。「参(曾子の名)よ、私の道は一つの原理で貫いているよ。」
曾先生が「はい」と歯切れよく答えられた。先師は満足げに出て行かれた。他の門人が「どういう意味ですか」と問うた。
曾先生が答えられた。「先生の道は、まごころ(忠)からなるおもいやり(恕)だと思うよ」)
<出典:「仮名論語」伊與田覺著 致知出版社>
孔子の門弟は三千人いると言われています。
有名なところでは孔門十哲とされる十人がおり、
頭脳明晰で商才に優れた子貢、
ガサツながらも勇敢で決断力のある子路などは個性的です。
そんな中、曾子はどちらかというとややのんびりした性格で、
特段の鋭さや秀逸さはなかったようです。
ただし、儒教で重視される「考」(親孝行)が厚く、
孔子の教えを真っ向から受けて実行しようとする純真さがあり
孔子は大いに目をかけていたようです。
なお曾子は、中国古典の四書五経、この四書のうちの「大学」の著者です。
「一を貫く」というのは、強い言葉であり、重い言葉です。
時代の変化、身近な周囲の変化、世界情勢の変化
変わり流れるこの世の中で、一を貫いて生きることは至難です。
自らの信念を打ち立て、坐して一を貫く姿勢
周囲からは容赦ない矢が飛んでくるでしょう。
それは、喜怒哀楽なのかもしれず、艱難辛苦ばかりかもしれません。
しかしそれでも一を貫いて生きることで
自らの生きてきた証を得られ
人生の本質を掴むことができるはずです。
逆の生き方もあります。
時代の波に乗る、臨機応変に自らの立ち位置を変える生き方
傷つかないように、火の粉から身をかわし、儲け話に飛びつく
人よりも多く、人よりも早く、人よりも安全に
野生動物の生存競争の様相
これを肯定するのなら
本能的機能に束縛された生き方となり
自らの名誉欲のために他国に侵略するような輩と変わりません。
私たちの真の進化は
自分の心をコントロールする力の習得ではないでしょうか。
一を貫く生き方
周囲がどうであれ、心すべき、生きる姿
「どうも人生などというのは難しいですけれども、一言で言えば人生とは自己との対決だと、自分との勝負だと、私はそう思います。これは表面的な成長とかそういうことではなくて、本当にひとりの人間としては自分と競争をして、自分との勝負に勝てる人、これがやっぱり人間として立派な人間、人間として一番立派な生き方ではないかと考えたりしております。」
~平澤興一日一言 自己との対決 十二月二十九日~
<出典:「平澤興一日一言」平澤興著 致知出版社>