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COLUMNSブログ「論語と算盤」

流転する世の中で道を拓く

2021年10月8日

或人の話に、松隈前の亨庵先年申し候由。「医道に男女を陰陽に当て、療治の差別有る事に候。脈も替り申し候。然るに五十年以来、男の脈が女の脈と同じ物に成り申し候。~(略)」と申し候由。是に付て今時の男を見るに、いかにも女脈にてこれあるべしと思はるゝが多く、あれは男なりと見ゆるはまれなり。それに付、今時少し力み申し候はゞ、安く上手取る筈なり。偖又男の勇気ぬけ申し候証拠には、縛り首にても切りたる者すくなく。まして介錯などといへば、断りの云ひ勝を利口者、魂の入りたる者などと云ふ時代になりたり。股ぬきなどと云ふ事、四五十年以前は男役と覚えて、疵なき股は人中に出されぬ様に候故、独りしてもぬきたり。皆男仕事、血ぐさき事なり。それを今時はたはけの様に云ひなし、口の先の上手にて物を済し、少しも骨々とある事は、よけて通り候。若き衆心得有り度き事なり。〔聞書第一 教訓〕

 (ある人の話だが、医師松隈前の亨庵がこういったという。「医術においては、男女を陰陽にあてはめて治療にも差別をつけており、脈も男女の相違があるものです、ところがこの五十年ほどの間に、男の脈も女の脈も差別が無くなってしまいました。~(略)」

 このことを頭において近ごろの男を見ると、いかにも女脈のように思われるものが大部分であって、これこそ男と思えるような者はまれである。それだけに、近ごろでは、いささかの努力によっても、たやすく人の上位に立つことができるはずである。

さらにまた、男が勇気を失ってしまった証拠には、縛り首にされた罪人を斬ることさえもよくできず、まして切腹の介錯などといえば上手にことわる者が利巧で心がけのよいように思われる時代となってしまった。

 四、五十年以前までは肝だめしのため股に刀をつきたてるようなことが、男らしいとされ、疵のない股などは人には見せられぬほどであったから、自分の手でもやったものである。こうしたことはすべて男らしいこととされていた。それが今日では、馬鹿もののすることとされ、口先の器用さで物ごとをすまし、多少なりとも骨の折れることは、よけて通るようになってしまった。

 若い人々はこうした点をよくよく考えてもらいたいものである。)

<出典:「葉隠」原著 山本常朝/田代陣基 神子侃編著 徳間書店>

 

 

男性の女性化をなげいています。

天下泰平の時代にこのような傾向がみられるのは、昔も今も変わらないようです。

 

そしてそれは、時代の変化をいざなうことにもつながるでしょう。

 

 

 易経では、時代の変化という側面から、同じようなことを指摘しています。

 

 「たいらかなるものにしてかたむかざるはなく、くものにしてかえらざるはなし。

くるしみてていにすればとがなし。うれうるなかれ。それまことあり。」

地天泰ちてんたい

 

 (平らなものは必ず傾き、去ったはずの閉塞へいそくの時代は必ず復ってくる。

  しかし、日々緊張感をもって労を尽くせば、安泰を長く保てる。

  不用意に不安やうれいを抱く必要はなく、健全な危機感を持てばいい。)

<出典:「易経一日一言」竹村亞希子著 致知出版社>

 

 

男性の女性化や、時代の変化はなぜ起こるのでしょうか。

 

 葉隠では、男性の女性化について、「近ごろの武士が女風になるのは、地位や財産を失うまいとする心が先に立つからだ」、そして「目前の地位や財産を守ることにばかり汲々きゅうきゅうとしていては、思い切った伸び伸びした働きはできるものではない」と指摘しています。(引用:前掲「葉隠」)

 

 

 易経は時代の変化について、「泰平の時はとかく容易に考え、安泰が永遠に続くという錯覚に陥りやすい。太平の世を傾かせるのは、そういうおこたりと油断、危機管理能力の欠如である」とします。(引用:前掲「易経」)

 

 

 

「歴史は繰り返さないが、しばしばいんを踏む」

米作家マーク・トウェイン

 

 

 循環するこの世において、男性の女性化はやがて元に戻り、

泰平の時代と閉塞の時代は繰り返すことになるのでしょうか。

 

 

 

 しかし回りがどうであれ、

私たち一人一人は自分に与えられたこの人生を

充実させ、協力して安泰な時代を継続させねばなりません。

 

 

 そのためには、

     易経の言うように、未来を憂うことなく「健全な危機感」を持ち、

     葉隠が指摘するように、今の地位や財産に未練がましくならず、

思い切って伸び伸びと、世に役立つ仕事をすることが必要でしょう。

 

 

 

あなたにとって「健全な危機感」とはどのようなものですか。

 

 

自分の人生の充実、そして安泰の継続のために、

考え、工夫し、実行し、

困難であればこそ「道」を切り拓いて生きていきましょう。