十七 人君の初政は、年に春のある如きものなり。先人心を一新して、発揚歓欣の所を持たしむべし。刑賞に至ても明白なるべし。財帑窮迫の処より、徒に剥落厳沍の令のみにては、始終行立ぬ事となるべし。此手心にて取扱あり度ものなり。
~佐藤一斎による重職心得箇条の第十七~
(人君が初めて政をする時というのは、一年に春という季節があるようなものである。まず人の心を一新して、元気で愉快な心を持たすようにせよ。刑賞においても明白でなければならない。財政窮迫しているからといって寒々とした命令ばかりでは結局うまくいかないことになるだろう。ここを心得た上でやっていきたいものである。)
<出典:「佐藤一斎『重職心得箇条』を読む」安岡正篤著 致知出版社>
春の人事異動で役職に就いた方も多いと思います。今回あげた言葉のように、メンバーを鼓舞し、明確な価値観と判断基準に基づいた組織運営、つまりは周囲に好影響を与えるリーダー・マネージャーをめざしてほしいと思います。
言うのは簡単ですが、実践するのは大変です。メンバーにとって「こんなリーダーが望ましい」という人物像を想定して対処するしかないでしょう。
過去に素晴らしい上司に仕えたことがあるのなら、イメージしやすいので幸運です。
経験が無いのなら、様々な場面で人間観察を行うことも役立ちます。取引先、異業種交流、セミナーなどにおいて、人脈を広げると同時に、魅力的で信頼できる人物の観察を行い、自分に取り込んでいってください。
リーダーを実践するに際して、注意したいポイントを挙げておきます。
①「巧言令色鮮なし仁」に注意
やがて取り上げようと思っている論語の言葉ですが、「巧みで飾った言、美辞麗句の言を発する人は、総じて仁の心が乏しい」というような意味になります。表面的な事柄だけでなく、リーダーとしての覚悟、自身の信念や熱意を表すことが肝心です。
②「聡明才弁」がベストではない
頭の回転が速く口が達者なら、ビジネスパーソンとして望ましい人物に映るでしょう。
ただし、東洋人物学の観点からは第三等のレベルです。第二等は「磊落豪雄」、第一等は「深沈厚重」となります。
「聡明才弁」は一つの能力として重要ですが、加えて「磊落豪雄」として覇気や勇気があるか、そして「深沈厚重」として、考え方が正しく人格的に認められる人かどうかという点は、人の上に立つ者として極めて重要な要素となってきます。
③オンライン・コミュニケーションでは工夫が必要
オンラインでは、上記のような人物に対する感覚が伝わりづらくなります。皆さんが発する内容も薄れてしまいがちです。
リアルな対面に比べて、言葉を厳選して用い(曖昧さを排除する)、重要な点をゆっくり語る(確実に理解・消化させる)など、メンバーに伝わりやすくする工夫が必要になります。
ところで昨今、役職者・リーダー・マネージャーのあるべき姿が捉えづらくなっていませんか。
20世紀では、パワハラ的な要素があっても力強さで引っ張るリーダーというのも一つの姿ではありました。
そのようなスタイルが否定される21世紀、新たなリーダーとしての概念が必要と思われます。
今後は、「人物」として認められる人が組織のけん引役になる時代になると感じます。