事を人に問うには、虚懐なるを要し、毫も挟む所有るべからず。人に替りて事を処するには、周匝なるを要し、稍欠くる所有るべからず。〔晩録 一六八〕
(人に物事を問うときには、公平でわだかまりのない心でなければならず、
ほんの少しでも自負するところがあってはいけない。
人に代わって物事を処理するときには、用意周到でなければならず、
少しでも落度があってはいけない。)
<出典:「言志四録 佐藤一斎」渡邉五郎三郎監修 致知出版社>
自分が確信を持てない場面や、悩む場面での心がけと言えます。
他人に教えてもらいたいことがあるとき、
質問の仕方にも配慮と工夫が必要ですが、
真っ新な状態で尋ねた方が親切に教えてくれるでしょう。
そのとき問題になるのが、自分の心情です。
(それは知っているからいいよ。要するところ何が問題なの。)
(それは分かるよ。そうではなく、具体的に何がどう良いの。)
など、心の中でイライラすることがありませんか。
これが言動に出てしまうと、相手の心情にも抵抗感が生じます。
その結果、相手が全ての情報を開示することを控えたり、意図的にポイントを隠したりすることになりがちです。
尋ねる側は、自負心を捨て、偏った見方をせず、素直に聴きとおすという意識が必要です。
もっとも、回答する側の感性や気配りも問われます。
特にビジネスの場面では、
相手にイライラさせるような回答の仕方は避けなければなりません。
両者が、共に意欲が湧くような会話が理想です。
後段は、誰かに代わって物事を処理するときについての教えです。
対処される側の立場に立って考えれば、理解しやすいでしょう。
例えば、自分の担当者が代わったような場面を考えてみます。
セールスの担当者でも、病院の医者でも、公的機関の窓口でも、
担当者が代わったときは心配になるものです。
案の定、(それは最初に伝えた前提レベルの話でしょう。そんなことも引き継いでないのか・・・)と感じるようなやり取りになると落胆します。
そういう感情を生じさせないために、自分が対応するときは、
よくよく慎重になる必要があるというわけです。
一通り重要な前提条件を確認し合った後に、「前任者から経緯をうかがいましたが、私の意見もそれが最善かと思います。」というように持っていかれると、私などは「やっぱりそうですよね。」と返事したくなります。
さらに、その新しい担当者に対し、前任者以上の信頼を置くかもしれません。
相手にそう思わせることができれば、新担当者としてはこの上ない成果です。
人対人の事案でなくとも、データや文章の記録・保管を依頼された場合などは、「この記録を後日確認する人にとって、いまどういう表現で処理するのが適切か」という視点から対処できれば、前任者以上の仕事の仕上がりになるに違いありません。
いずれにせよ、物事の全貌を捉えて対処することが、
手間はかかるものの、最も効果的でスムースになるわけです。
そのための努力や工夫、そして気遣いが求められます。
しかしそれこそが、人間関係を良くし、
晴れ晴れとした気持ちで日々を過ごしていくための
一つのコツではないでしょうか。