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COLUMNSブログ「論語と算盤」

最終利益

2021年6月17日

損益計算書の終了回です。

 

 

経常利益特別利益を加算して特別損失を減算することで、税引前当期純利益が算出されます。

そして、その金額を基に課税額が決定します。

 

 課税額は、「法人税等」という勘定になります。

 

 正確には「法人税、住民税及び事業税」であり、

法人所得税、法人住民税、法人事業税という〔法人3税〕の合計となります。

 

 

 中小企業や非上場企業における通常のケースでは、税引前当期純利益からこの法人税等を控除することで当期純利益が算出され、それによって損益計算書が確定されることになります。

 

 

 ただし、非上場でも一部の企業、上場企業ならほとんどの場合、法人税等の下に「法人税等調整額」という勘定科目が出てきます。

 

 これは、税務会計による利益と、企業会計による利益の違いを表示するものです。

多くの場合、「税金はこれだけ支払いますが、企業会計の観点からは払い過ぎです。その払い過ぎた金額をここに表示しますが、これらは時間の経過によって取り戻すことになります」というメッセージになります。

 

 

具体的な例としては、「退職給付引当金」の勘定について、企業会計では損金処理しますが、税務会計では損金処理が認められていないため、その分税金が多くなります。

他にも、減価償却期間について、企業側は自社の考えに基づいて償却期間を設定しますが、税務会計では税法上定められた耐用年数による償却額しか認められず、やはりその分税金が多くなります。

 

 いずれの場合にも最終的にはつじつまが合います退職給付引当金は、退職者が発生したときにその引当金を用いるため、そのときに退職給付費用として損金計上することになります。

減価償却期間の問題では、例えば企業は3年間の償却処理、税法上の耐用年数は6年という場合、6年後には同じことになります。

 

 他にも、貸倒れが生じたが法的に相手企業の倒産が認められるのが次年度のため、本年度は貸倒金額を損失処理できないケース、また時価評価で引き下げた土地の評価損が税法上では損失と認められないなどというように、様々なケースがあります。

 

 

ところで、結果が同じであれば、なぜそんな面倒なことをわざわざするのでしょうか。

 

それは、上場企業が投資家に企業実態を正確に伝えるためであり、このように「法人税等調整額」を用いて当期の収益状況を表現した方が適切と言えるのです。

 

以上を経て、当期純利益が確定することになります。

 

 

 

 損益計算書の最後に、コンサルティングで経験した一コマを紹介しておきます。

 

 当時、これから述べる事実を知ったときには絶句しました。

しかし、マネジメントの空白地帯が見逃されてしまうケースとして印象に残っています。

 

 その会社は、原材料を仕入れて完成品を製造するメーカーです。製品開発面では、専門学校を出た新卒を採用するなど力を入れており、毎年新製品を発表していました。

 

 新製品の検討においては、取締役を前に開発担当者一人一人が自らのアイデアに基づく新製品企画をプレゼンします。

プレゼン内容は、機能やデザインは当然のことながら、製品の売価、そして原材料ごとの仕入原価も示されていました。よって、各製品の粗利益率は明確にされていたのです。

 

 

厳しい審査を経て、多数の企画からその年の新作が決定され、製造開始となります。

 

 

 さて、毎月の試算表、中間決算、本決算において、会社の利益率を確認するのですが、どういうわけか予定の粗利益率をかなり下回る結果になっていました。

 

 製品別に検証しているわけではなく、全社の粗利益率の結果なので、「何か諸事情があるのだろう」と、誰も真剣には問題視していませんでした。

現場においても、受注・納品・リピート生産とフル稼働の状態のため、振り返って検証する機会も持てず、徹底した原因究明がなされることなく棚上げされていたのです。

 

 

あるとき、やっとメスを入れて原因追及したところ、呆れるような事態が現れました。

 

主となる原材料(天然素材)の発注において、単位当たり仕入価格を記載した書面によって仕入先に発注していましたが、入荷に伴う仕入先発行の納品伝票の金額は、その発注書の記載単価と相違しており高額だったのです。

 

 入荷時の検収作業は工場側が担っており、素材の品質、仕様の適合、数量面などをチェックしていましたが、金額面は企画開発部門の担当範囲であることから、確認されていなかったということです。

 

極めて原始的というか初歩的な過ちがずっと継続されていたのです。

 

その後、仕入先への対応も含めて改善が図られたことにより、徐々に粗利益率も上昇してきました。

 

 

 この顛末、聞いただけなら「そんなの間抜けだよ」と言われるかもしれません。

しかしながら、この会社は売上高20億円程度を誇っており、その地域において、雇用面も含め、確固たる地位を築いているのです。間抜けな会社であれば、ここまでの存在感にはなっていないでしょう。

 

 ぎこちなさの残る会社運営でも、何とかここまでは成長・維持できてきたのでしょう。

そして、この事象と同じような「水モレ状態」的な業務領域が他にも隠れているかもしれません。

 

 

しかし、今後の成長を見据えると、このような甘いマネジメントは間違いなく足枷になります。

 

会社全体を網羅する目線が無いと、マネジメントの空白領域が生じるのです。

 

 

よく言われるように、「売上高が10億円を超えたら、しっかりとした組織体制が必要」

ということの裏付けのような一コマでした。

 

 

皆さんの会社は、大丈夫ですか?