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COLUMNSブログ「論語と算盤」

特別な損と益

2021年6月14日

損益計算書も終盤に入ります。

 

 先回、経常利益という概念は、国際会計基準IFRSInternational Financial Reporting Standards)や米国会計基準GAAPGenerally Accepted Accounting Principles)に無いと記載しました。

 

つまり、経常利益は日本独自の概念なのです。

 

 

 経常利益の次に位置する特別利益特別損失とは、まさに「特別」な利益・損失です。

 

「特別」とは、先回まで見てきた「経常的な事業活動」以外のものとなります。

よって、数年や数十年に一回、あるいは創業から廃業まで一回も生じないような事象をさします。

 

 具体的な勘定科目としては、固定資産売却益売却損、長期保有の有価証券売却益同売却損などとなります。また、火災や盗難などによる損失があれば、それらも特別損失として計上されます。

 

 

 このように、特別損益は経常的な事業活動以外の要素であり、企業の収益力としては認めづらいものです。

ただし、納税時の税額決定に際して、特別利益は課税対象の利益として加算され特別損失は課税額を低減させる損失として減算するということには、意義があると考えられます。

 

 他方、冒頭で述べた様に、IFRSGAAPにおいては、この特別損益を「特別」とは認めていません。上記のような事象が生じるのは経営上自然なことであり、それらも含めて適切に対処するのが経営層の役割と考えているからです。

 よって、上記のような利益と損失は、概ね営業外の収益と費用に計上されることになります(一部は販管費に計上)。

 

 

 この後は、税引前当期純利益が算出され、納税額や最終の当期純利益へと進んでいきます。

 

 

 ところで、コンサルティングの経験上、特別損益については極めて印象深い経験があります。

特定企業の話ではなく、輸出入を行っていた中小企業全般に関係する問題でした。

 

 20089月のリーマン・ショック前まで、円ドル相場は〔1ドル=120円〕程度と円安基調でした。

この時期、日本のメガバンクは中小企業に対して為替デリバティブの購入を勧めました。

具体的には、5年から10年という長期間における、〔1ドル=100円(程度)〕のドル買い契約です。

 

 例えば、原料を外国から輸入していた企業にとって、今以上の円安は損益的に厳しくなるという状況でしたが、〔1ドル=100円〕程度に固定化できれば、そのリスクをヘッジできることになります。

 

 

魅力的だったわけですが、リーマン・ショックを境に状況が反転します。

 

 

 リーマン・ショックは、世界的な金融危機を招き、当然ながら日本経済にも大きな傷跡を残しました。しかしその一方、為替市場では各国の機関投資家による有事の円買いが発生し、日本円は独歩高、円高になっていったのです。

 その勢いは強く、年間平均レートでみると、2007年に118円程度だったレートが、2008年に約103円、2009年は約93円、2010年で約88円、2011年と2012年は約79円というように、東日本大震災にもかかわらず円高が進んでいったのです。

 

 

 為替デリバティブを購入した中小企業は、この状況下でも〔1ドル=100円程度〕でドルを買うことになるため、直物レートとの差額分がそのまま損失になります。

 

この損失額が特別損失として計上されたわけです。

 

 

 コンサルティングを行っていた先で、何らかの形で輸入取引を行っていた会社は、軒並み業績が悪化していきました。

 リーマン・ショックによる景気低迷、その2年半後の東日本大震災というように、ただでさえ厳しい経営環境になったのに加え、多額の特別損失を計上し続けることになったのです。

 

 営業利益と経常利益が黒字であったとしても、特別損失の影響で最終的に当期純損失となり、それがマイナスの内部留保として繰越利益剰余金を侵食し、やがて繰越欠損に誘い、そして債務超過になっていきました。

 

 

 この問題はいかがなものかということで、国会でも取り上げられました。しかし、何らかの支援施策を打ち出すことはできませんでした。銀行による金融商品の販売行為が不適切でなかったのなら、購入した中小企業の自己責任となってしまうのです。

 

 銀行側は、困っている中小企業に対して、当初は対応に苦慮していたようですが、やがて金融ADR(裁判外の紛争解決制度)を勧めるようになりました。

法的に白黒をつけて対応しようということでしょうが、そうなってくると、残念ながら町中の中小企業にとっての分は悪くなります。

 

 

 この為替デリバティブを起因として、営業黒字かつ経常黒字であった売上高十数億を誇る製造業が経営破綻となったとき、従業員の今後、取引企業(顧客のMDや外注先への悪影響)、他にもブログでは書けない各種事情など、やるせない気持ちになったものです。

 

 

経営の一寸先は、「灯」もあれば「闇」もあります。

 

特に闇は、決して「軽い」ものではなく、非常に「重い」ものです。

 

 

経営層が自社の財務の状況やリスクを掌握することは当然のことであり、

 

事業遂行の道のりの中で、決して躓くことがあってはなりません。

 

 

そして、会社で働く一人一人のビジネスパーソンとしても、経営に対する適切な知見を蓄えて、

 

正しく健全な事業運営に貢献することが求められてきていると感じます。