ドラッグストア業界の6回目、最終回です。
今回は、「投資力」に焦点を当てます。
具体的な指標としては、営業CF対投資CF比率、ROIC、そしてWACCです。
最初は、営業CF対投資CF比率です。
投資CFを営業CFで賄えていたら、この比率は100%以上となります。
この場合、FCF(フリー・キャッシュフロー)がプラスになりますので、財務CFにおいて借入金返済、社債償還、配当金の拠出などが比較的容易になります。
逆に、積極的に投資を行っている場合は100%以下となりますが、
一概に悪いわけではありません。
成長のチャンスであったり、資金調達が順調であったり、
現預金の保有額が多かったりした場合、
その期の営業CF以上の投資(CF)も十分考えられます。
場合によっては100%以下である方が望ましい会社や時期もあるでしょう。
その点を鑑みながら判断することになります。
〔営業CF対投資CF比率=営業CF÷投資CF〕
4社をまとめて見ると、揃っているのかバラけているのかわかりません。
1社ごとに見てみましょう。
まず、ウエルシアHDですが、前述の営業CF対投資CF比率の値が大きくなっています。
営業CF、投資CF、FCFの動きをグラフで見てみます。
(投資CFはマイナス表記していますので、下方に行くほど投資額が多いということになります。)
図表を見ると、投資が抑制されてきている様子です。
営業CFは概ね増えていますので、FCFが増大し、キャッシュが増える方向になっています。
前回、直前期で実質無借金経営になったことを紹介しました。
キャッシュ確保が優先されたのかもしれません。
続いてツルハHDです。
ツルハHDも、前述の営業CF対投資CF比率の値が2期連続で大きくなっています。
当社の営業CF、投資CF、FCFの動きが下図です。
直前期は、前年の2倍近く投資を増やしています。
直前期の営業CFは特殊事情(買掛金増加)であり、投資に振り向けるには潤沢とは言えません。
ただし、財務CFでの資金調達(借入等)を行っているので、計画通りなのでしょう。
次にコスモス薬品です。
営業CF対投資CF比率は、2020決算期で拡大し、2021決算期で縮小したという動きです。
当社の営業CF、投資CF、FCFの動きが下図です。
投資は3期連続で減少しています。
2020期の営業CFは特殊事情(買掛金増加)で拡大しましたが、
全体的には営業CFが縮小しているように見えます。
営業CFの拡大策および投資ボリュームについては、今後の戦略次第でしょうか。
最後にサンドラッグです。
直前期での営業CF対投資CF比率の値は、直前期は177.4%ですが、それ以前は200%超での推移でした。
当社の営業CF、投資CF、FCFの動きです。
営業CFが3期連続で300億円強という中、
直前期の投資CFは前年比1.3倍程度になっています。
店舗の新規出店や改装、ITデジタル面への投資もあったようです。
では次に、ROICの指標を見てみましょう。
この指標は、投資と本業の儲けの関係を表します。
つまり、投資額の何%の儲けを生み出したかという指標です。
・投資は、純資産の総額と有利子負債の合計です。
・本業の儲けは、営業利益から不可避なコストとして
法人税等(調整額加算済)を控除した金額です。
数値が大きいほど、投資から儲けを生み出す力があるということになります。
〔ROIC=(営業利益−法人税等)÷(純資産+有利子負債)〕
直前期においては、ウエルシアHDのみ上昇しています。
ツルハHDが低下した理由は、儲けの部分は前年並みですが、
有利子負債が大きく増えたことが影響しています。
コスモス薬品は、この4期12%台を維持しており、安定的です。
サンドラッグは3期連続で低下しています。
2018決算期の15.7%から3.3ポイントの低下で、直近の値は12.4%となっています。
最後にWACCを見てみましょう。
WACCは資本コストを表します。
先ほどのROICにおける投資の部分にかかるコスト(%)であり、
具体的には、株主資本コストと負債コストとなります
(詳細は、当ブログ「財務分析 建設業界-6」を参照してください。)
WACCとROICの関係は重要です。
例えば、3%の資本コストで投資金額(純資産と有利子負債)を獲得し、
それを投資して、その見返りとなる儲け(営業利益−法人税等)が
2%であったなら、その投資は不適切となります。
つまり、〔WACC<ROIC〕という関係であることが必須と言え、
さらにその差分は大きいほど望ましいということになります。
では、下表を見てみましょう。
4社とも〔WACC<ROIC〕となっています。
その差分については、大きい順にウエルシアHD、コスモス薬品、
サンドラッグ、ツルハHDとなります。
投資家の目線から言えば、直近実績だけ見れば上位に位置した方を好むでしょう。
ちなみに、ウエルシアHDとコスモス薬品は、第3回目で紹介したROE(自己資本利益率)も2位と1位であり、この点も投資家には好感されると想定できます。
以上で、ドラッグストア業界を終了します。
※当サイトの「注意・免責事項」ご確認ください。