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COLUMNSブログ「論語と算盤」

ドラッグストア業界-4

2021年10月28日

ドラッグストア業界の4回目です。

  

今回は、名付けて「資本活用力」の切り口で分析結果を見てみましょう。

 

 

 最初は、総資本回転率です。

 

〔総資本回転率=売上高÷総資本〕 

 

 各社、直近の2期は下降傾向です。

 

2018決算期と直近決算期の比較では、

  ウエルシアHDは、0.20回分の低下

  ツルハHDは、0.28回分の低下

  コスモス薬品は、は0.10回分の低下

  サンドラッグは、は0.22回分の低下 であり、

コスモス薬品の低下幅が最小となっています。

 

 

 この指標は、経営に投下した総資本の何倍の売上高を上げたかを示します。

 単位が「回」になっていますので、言い換えれば、

経営に投下した総資本が、売上高として何回転したかとなります。

 

 第1回で見たように、4社ともに売上高を伸ばしている中で、

この総資本回転率が低下しているということは、

総資本の増加度合いが大きいということになります。

 

 

 総資本とは、資本金および利益の内部留保が主役となる純資産、

そして買掛金や借入金などで構成される負債、この両者の合計です。

 

つまり、返済不要の自己資本と、返済が必要な他人資本の合計です。

 

 これら総資本をどう使っているか、つまり資本の運用の巧拙が重要となります。

売上高の伸び率以上に総資本を増やしているので、

理想的には、来期以降の業績向上に資する運用が期待されるところです。

 

 

 運用先は、流動資産固定資産となります。

 

 ここでは、流動資産の中で、注意すべき項目、

まずは売掛金の回収にかかる日数、つまり売上債権回収日数の推移を確認します。

 

〔売上債権回収日数=売上債権残高÷日商(売上高÷365)〕

 

 この指標は、小さいほど売上債権の回収が速いことになり、

キャッシュフロー面に好影響を与えます。

 

 分析対象の4社は現金商売が中心となる小売業なので、

売掛金が多大に発生することはないでしょう。

 

各社の値に違和感はないと感じます。

 その中でも、コスモス薬品の現金販売、回収状況は徹底されているようです。

 

 

 次に、日商の何日分の在庫を抱えているか、つまり棚卸資産回転日数を確認します。

 

〔棚卸資産回転日数=棚卸資産残高÷日商(売上高÷365)〕

 

 この指標も先ほどと同様、小さい値ほど在庫の回転が速いことになり、

キャッシュフロー面に好影響を与えます。

 

 直近において、各社上昇しています。

 直前期の売上高をもとに、日商の何日分かという値なので、

売上高が伸びたと言えども、この値は低め、かつ一定レベルの維持が理想です。

 

 

ちなみに、日本政策金融公庫総合研究所による「小企業の経営指標」によれば、

「医薬品・化粧品小売業」の平均値は1.1ヵ月(約33日)となっています。

 

 それを仮の基準として眺めると、

ツルハHDは恒常的に高めであり、上昇傾向でもあります。

 

33日以下なのは、コスモス薬品のみとなっています。

 

 

 次に、流動比率という指標を見てみます。

 

〔流動比率=流動資産÷流動負債〕

 

 この比率は、通常は安全性の代表的指標ですが、

ここでは資本の調達と運用のバランスという見地から取り上げています。

 

 具体的には、1年以内に現金化するであろう流動資産で、

1年以内に返済が必要となる流動負債が賄えているかが表され、

100%以上であることが必須とされています。

 

100%未満の場合短期(1年以内)の支払能力が危惧されるわけです。

 

 ウエルシアHDはギリギリのレベルですが、

コスモス薬品はなんと、その「危惧される状態」になっています。

 

 コスモス薬品は、上述のように売掛金も在庫も4社中最低値と望ましい状況です。

流動資産の構成科目では、「その他流動資産」を除けば、残るは手元資金となります。

 

 コスモス薬品の手元資金は決して小さくなく、

有利子負債を軽々と返済できるレベルです。(詳細は次回紹介します)

 

 当社の流動比率が100%未満となる特徴的な要因は、

流動負債中、買掛金が大きいことです。

 

 直近の決算書によると、

平均的な1日あたりの仕入額で約83日分が買掛金として残っています。

 

 法人営業の経験から、仕入先の視点に立って考えると、

売上高の伸び率が大きくて、商品回転率が高い顧客は魅力的です。

 

 既述したように、

コスモス薬品はEDLP(エブリディ・ロー・プライス)戦略ですから、

商品回転率を高められているのでしょう。

 

そんな背景からか、支払いサイトが長めでも仕入先は許容しているのかもしれません。

 

 

 二宮金次郎は商売繁盛の秘訣として、次のように述べています。

 「商売が繁盛して大商人になるのは、高利をむさぼらずに、安価に売るからだ。

  高利をむさぼらないため、国ぢゅうの買い手が集まってくるのは当然のことだが、

  売手もやはりここに集まるのはおもしろいことだ。

  買うことが売ることとの間に立って、高く買って安く売るのは、

  できることではない。だから安く売る所は買いかたも安いはずだ。

  その安く買う所に売手が集まるというのは実におもしろい。」

<引用:二宮翁夜話 福住正兄原著 佐々井典比古訳注 致知出版社> 

 

 

 最後に自己資本比率を確認します。

 

〔自己資本比率=自己資本÷総資本〕

 

 この指標は、総資本のうち、返済不要の自己資本がどれだけあるかというものです。

 

非上場企業なら、高いほど経営基盤が盤石とみなされます。

一方、上場企業の場合は、

負債も活用した業績向上(レバレッジ)も期待されますので、

値が高ければ良好とも言い切れません。

 

 

 各社を見ると、サンドラッグは過去から高いレベルを維持しています。

ここまで見てきたところ、当社はしっかりと我が道を進んでいるイメージです。

 

 コスモス薬品は直近で50%に乗せてきています。

 

 売上規模、経営規模の大きいウエルシアHDとツルハHDは、直近で低下しています。

 

 ウエルシアHDに関しては、

この値の低下と裏腹に負債比率が高まったため、

前回紹介したROEの値が上昇しました。

  それに対してツルハHDは、

借入金や買掛金の増加などを主因に負債比率が高まったものの、

当期純利益が前年より下がったことから、ROEが低下してしまいました。

 

 

 

今回は以上です。

 

次回は、「資金力」を見ていきます。

 

 

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