ドラッグストア業界の3回目です。
今回は、「稼ぐ力」を確認します。
まず、EBITDAです。
(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization)
これは「利払前税引前償却前利益」と略され、
当期純利益に、法人税等・支払利息・減価償却費を足し戻したものになります。
シンプルには、営業利益に減価償却費を足したものとほぼ同様となるため、
前々回以降と同様に「営業利益+減価償却費」で算出しています。
この値は、海外企業との「稼ぐ力」の比較において効果的です。
国ごとに違う法人税率、利子率、償却方法の影響を排除するため、
企業の国際間比較が適正になるというわけです。
また、多額の投資を行った場合でも、
その企業の「稼ぐ力」をしっかり補足できます。
多額の投資を行うと、それ相応の減価償却費を計上することになり、それによって営業利益が少額になります。
そこで、減価償却費を足し直すことで、
その投資によってどの程度「稼ぐ力」を付けたのか、
適正に判別することができるわけです。
(補足すると、投資額の資金調達に無理が無ければ、減価償却費が多大でも経営の屋台骨を揺るがすようなことにはなりません。逆に節税効果が生じて、メリットが大きいというケースもあります。
利益と資金の動きは違うというわけです。)
では、4社のEBITDAの比較です。
〔EBITDA=営業利益+償却費〕
補足として、4社の営業利益額、減価償却額、営業利益に占める減価償却費の割合について、直近2期の実績を以下に示しておきます。
EBITDAが最大なのはツルハHDです。
順調に拡大している推移であり、その主因は営業利益額です。
減価償却としては、償却費の実額および営業利益に占める割合でもそれほど大きくありません。
2番手はウエルシアHDで、トップに肉薄しています。
償却費の面では、新規出店の投資額において、1店舗当たりの費用が他社に比較して多めです。
例えば、ツルハHDやサンドラッグが1店舗当たり100~150百万円程度なのに対して、ウエルシアHDは184百万円程度です。(各社有報【設備の新設、除去等の計画】より)
この点も影響しているのか、償却費の実額は4社中最大となっています。
同じドラッグストアという業態ですが、
店舗の面構え(ファサード)や店舗内設備には大きな違いがあるようです。
このような要素も、今後この業界が変化していく兆しと感じられます。
3番手は、4位と僅差ながら、営業利益を主因として伸長させたコスモス薬品です。
営業利益に占める償却費の割合は4社中トップであり、投資活動が活発であることがわかります。
サンドラッグは、売上高の伸長に比して、ほぼ一定額の営業利益を維持しています。
なお、償却額および営業利益に占める割合ともに、4社中最小となっています。
続いて、上記EBITDAを売上高からどれだけ生み出したかの指標であるEBITDAマージンを確認してみましょう。
〔EBITDAマージン=EBITDA÷売上高〕
EBITDAから一転、サンドラッグが第1位となります。
前回確認したように、売上高利益率(粗利率、経常率等)が高水準であることが影響しています。
2番手はツルハHDとなります。
トップ2社は、直近こそ前年と同等ですが、推移としては低下気味です。
それに対して、コスモス薬品とウエルシアHDは直近で上昇させています。
最後に、ROEを見てみましょう。(Return on Equity)
ROEは「自己資本利益率」と訳され、投資家からの出資額(=自己資本)で、当期純利益をどれだけ生み出しているかを示します。
計算式で表すと、〔当期純利益÷自己資本〕という考え方になります。
ただし、指標の算出においては一般的に以下の算式が用いられるため、
今回の指標算出も下記の式に則っています。
なお、現下の株式市場においては、
10%以上の値であれば望ましいという認識が主流となっています。
〔ROE=親会社株式に帰属する当期純利益
÷(純資産-新株予約権-非支配株主持分)〕
トップはコスモス薬品であり、16%に届かんばかりです。
EDLPという基本戦略ながら、前回見た当期純利益の高さからこのレベルを実現しています。
2番手はウエルシアHDですが、直近の2期で急上昇しています。
この2期の純資産の伸び率が10%強であるのに対し、
当期純利益を31%、23%と大きく伸ばしています。
3番手のサンドラッグは下降傾向です。
純資産の伸び率が10%前後あり、当期純利益の伸び率を上回っています。
4番手のツルハHDも下降傾向です。
特に直近は、純資産が増える一方、
当期純利益が前年を下回ってしまったため、1.6ポイントも下げてしまいました。
今回は以上です。
指標としては3つでしたが、
各社各様で、順位が大きく入れ替わりました。
前回のような、従来から馴染みある指標に比べると、あまり重視されていないのかもしれません。
そのために、各社のマネジメントのウエイトにバラつきがあり、上記のような結果になったとも考えられます。
もっとも、国内展開が中心で、かつ資本調達が順調であれば、
今回のような指標を意識する必要性は低くなります。
ひとまず、「稼ぐ力」は以上です。
次回は「資本活用力」を見てみましょう。
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