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COLUMNSブログ「論語と算盤」

国家財政をいかに

2021年9月28日

租税そぜいを薄くして民をゆたかにするは、即ち国力を養成する也。故に国家多端たたんにして財用ざいようの足らざるを苦むとも、租税の定制を確守し、上を損じて下をしいたげぬもの也。古今ここんの事跡を見よ。道の明らかならざる世にして、財用の不足を苦しむ時は、必ず曲知きょくち小慧しょうけい俗吏ぞくりを用い、巧みに聚斂しゅうれんして一時の欠乏に給するを、理財りざいに長ぜる良臣りょうしんとなし、手段を以て苛酷かこくに民を虐たげるゆえ、人民は苦悩にえ兼ね、聚斂をのがれんと自然譎詐けっさ狡猾こうかつおもむき、上下互にあざむき、官民敵讐てきしゅうと成り、つい分崩ぶんぽう離拆りせきに至るにあらずや。

(税金を少なくして国民生活を豊かにすることこそ、その国の力を高めることにつながる。だから国として取り組む事業が多く、財政不足で苦しむようなことがあっても、決まった制度をしっかり守って、むやみと租税の法制を変えたりしてはいけない。政府高官や富裕な人たちが損をしても、一般国民の人々を苦しめてはならない。

 古来、歴史をよく見てみるがよい。人の正しい道、道理が通らない世の中にあって、財政の不足で苦しむ時は、必ずこざかしい考えの小役人を用いて、その場しのぎをする人などを、財政がよく分かる立派な官僚と思って扱ってしまう。そういった小役人は手段を選ばず、無理やり国民から税金を取り立てるから、人々は苦しみ、堪えかねて税の不当な取り立てから逃れようとしてしまい、嘘いつわりを言うようになる。

 そして、互いにだまし合い、役人と一般国民が敵対して、最終的には国が分裂、崩壊するようになってしまうのではないか。)

<出典:「西郷南洲遺訓」桑畑正樹訳 致知出版社>

 

 

昔の租税の取り立ては、今の時代より格段に厳しかったのでしょう。

  時代劇などを見ると、お上の指示通りに税を徴収せねば、

取り立てる役人自身の立場も危うかったようです。

 

 

それにしても、現代、そして今後の財政問題は難題で深刻です。

 

 我が国の財政赤字額は1,400兆円超、

GDP(国内総生産)の2.5倍超となっており、世界で断トツのワースト国です。

 

出典:IMF 「International Monetary Fund, World Economic Outlook Database, April 2021」

 

 なお、上記に加え2020年からコロナ対策の財政発動が急増しており、

政府総債務のGDP比はさらに上昇しています。

 

 

 過去の変化を見ると、

2019年までにおける政府総債務の増加の主因は、下図の如く社会保障費です。

 

出典:財務省HP「日本の財政を考える」

https://www.mof.go.jp/zaisei/aging-society/index.html

 

  他方、我が国の債務を引き受けているのは誰かというと、

下図のように家計が主役となっています。

 

出典:日本銀行調査統計局2021年3月27日

「参考図表2020年第4四半期の資金循環(速報)」をもとに作成

 

 つまり、企業も含め、自国内の民間セクターが債権者であることから、

現状では国家破綻のリスクはほぼ無いと言えます。

 

 もし、日本国債保有者の大半が外国人であった場合、その保有者が日本政府の償還が困難になると想定したなら、手持ちの国債を投げ売りするでしょう。

すると、債券市場における国債の流通価格が低下し、それとともに利回りが上昇、その影響が市中金利の上昇を誘うことになります。

 

 これは、金利上昇に伴う経済停滞と、増加した金利費用を賄うための物価上昇の同時発現、つまりスタグフレーション、あるいはハイパーインフレーションなどという最悪のシナリオにつながる可能性があります。

 

 それに対して現状は、自国内の民間セクターが

自らの生存基盤を破綻させる行為はしないという想定が成り立っているわけです。

 

 

 

さて、だからといって楽観できるでしょうか。

 

 インフレにならない限り財政支出はどんどんやって良いというMMT理論(Modern Monetary Theory:現代貨幣理論)が近年注目されています(多くの批判もあります)。

 

 また、国の債務の増加は、すなわち国民の債権の増加ということで、国の総債務の増加に目くじらを立てる必要性はないという考え方もあります。

 

 

ただし、収支の合っていない運営になっている現状は、

明らかに正常ではないと考えるのがまともな思考でしょう。

 

 

社会保障費は今後ピークを迎えて、30年後あたりから減少していくでしょう。

 

 

その一方、目線を変えると、国防の強化の必要性が日々高まっています。

 

 実は中国も日本と同じように、

年金や医療など社会保障費の増大による

財政赤字の急拡大が見込まれています。

 

 一党独裁国家が困難に直面したとき、体制維持のために使う常套手段、

それは国民の目を国内から逸らすことです。

 

日本、そして英米豪などに対する軍事活動が活発になる危険性が高まっているのです。

 

 

国の財政問題を改善するためには、税収の拡大も必要です。

民間の力を活用して、経済活動を一層活性化させるためには、

規制緩和をさらに推し進めることも有効ではないでしょうか。

 

 コロナの影響で、困った状態を救うことばかりに出費がかさんでいますが、

規制緩和による経済力の強化にも工夫があってしかるべきです。

 

 

 官僚や行政が前例踏襲の慣例を変えられなければ、

政治家だけを変えても日本は変わらないでしょう。

 

 逆に、官僚や行政だけが高い志を持っていても、

政治家の思考が旧態依然であれば同じことです。

 

 西郷さんの言葉のように、「役人と一般国民が敵対して、最終的には国が分裂、崩壊するようになってしまう」ことは避けねばなりませんが、その工夫がなされているかというと、疑問です。

 

 

政治と行政、さらには国民も含めて、

将来の青写真を共有し、協力し合う風土が広がれば、

日本はきっと上昇基調になるはずです。

 

そして私たちは、そのポテンシャルを持っているはずです。