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COLUMNSブログ「論語と算盤」

財務指標-3

2021年12月27日

財務指標に関する説明の3回目です。

 

 

今回は、業界分析の第3回目に用いている

稼ぐ力」の指標です。

 

 

    具体的な指標は、EBITDAEBITDAマージンROEの3つです。

 

 

EBITDA

 〔EBITDA=営業利益額+償却費〕

 

Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization

の頭文字をとった名称です。

 

英単語を和訳すると、

Eは利益、Bは控除前、Iは金利、Tは税金、Dは減価償却費、Aは償却費、

 よって、「利払前 税引前 償却前 利益」となります。

 

読み方は、「イービットダー」や「イービッダー」、「イービットディーエー」など色々です。

 

 

 この指標の計算式の成り立ちは、以下のようになります。

 

まず利益は、当期純利益のことです。

そして、「税引前」ということなので、税引前当期純利益となります。

 

次に、「利払前」ということですが、これは金融収支を除くという意味で捉えられます。

 

国際会計基準や米国基準の場合、経常利益の概念がないので、

税引前当期純利益から金融収支を控除すると、ほぼ営業利益となります。

 

日本基準では特別損益がありますが、これはあくまで特別です。

めったにない損益ですから、やはりほぼ営業利益と捉えて良いと考えられます。

 

そして「償却前」です。

DDepreciation)は、建物や車両運搬具など、有形固定資産の減価償却費をさします。

一方、AAmortization)は、ソフトウエアやのれんなど、無形固定資産の償却費をさします。

 

 

以上から、計算式は下記のように示されます。

EBITDA当期純利益+法人税等+金融収支+償却費

 ただし、企業ごとに計算項目が変わりますので、詳細に分析する場合には注意した方が良いでしょう。

 

 

なお、当「算盤ブログ」では、一般的かつ簡便な計算式として、

EBITDA営業利益額+償却費」で、今後も計算する予定です。

 

 

 

 さて、なんでこんな面倒くさい計算式で比べるかという点を説明しておきます。

 

企業間で収益性を比較するとき、どの利益を用いるかという点は重要です。

もし、当期純利益で測ると、グローバル企業の利益額がゆがんでしまいます。

 

 

なぜなら、差異要因が存在するためです。

 

 

 例えば、利子率法人税率は、国ごとの差異があります。

また、減価償却費については、償却方法という差異があります。

 

 国内企業同士の比較であっても、設備投資が大きい企業の場合は、減価償却費が巨大になるため、利益が極小、もしかすると赤字になる場合もあり得ます。

 

稼ぐ力」が隠されてしまうのです。

 

また、借入金が大きければ支払利息も大きくなってしまいます。

 

 

このような比較において、EBITDAを用いれば、

設備投資の効果も含んだ利益(営業利益)が明確に把握できるわけです。

 

このように、EBITDA企業間の差異要因を排除して、

合理的で適正な収益性の比較を行うために有益な指標と言えます。

 

 

以上から、「稼ぐ力」、「真に稼いだ額」として、この指標を採用しています。

 

 

 

EBITDAマージン

〔EBITDAマージン=EBITDA÷売上高〕

 

述べてきたEBITDAが売上高に占める割合を表します。

売上高利益率の考え方と同じです。

 

 同業種でも、当然ながら売上高の差はありますし、

場合によってはかなり大きな差になるでしょう。

 

そのような場合において、売上高に占める「稼ぎ」が、

どれだけの比率であるかを比較しようとする狙いです。

 

 

 

ROE

〔ROE=当期純利益÷自己資本〕

 

 Return on Equityの頭文字をとった名称です。

 

和訳すると、Returnは見返り(当期純利益)、Equityは自己資本となります。

 

つまり、自己資本を活用して、どれだけの当期純利益を得たかの指標であり、

 

自己資本利益率として訳されています。

 

 

 この値が高ければ、投資家から集めた自己資本を上手に運用して、当期純利益を十分に生み出したということになります。

 

 

よって、投資家からの高評価を得ようとすると、ROEの向上は必須と言えます。

 

 

 特に、日本のような借入中心の間接金融ではなく、

株式や社債という直接金融が中心の米国では重要性が増します。

 

ROEの値が低いと、投資したお金を無駄に使っていると考えられてしまい、

その結果、必要な時に投資家からそっぽを向かれてしまいかねません。

 

 

 

ところで、ROEは、本来の資本主義の考え方を表しています。

 

 

 渋沢栄一の大河ドラマでは、社会に必要な事業について、比較的裕福な人々がお金を出し合い、任された人物がその資金で社会を良くする事業を行うという欧州の場面が描かれていました。

 

 このとき、投資家とすれば、社会のために資金を拠出したのに、大した利潤も生まない、そのうちまた金の無心に来るのではないか、という気持にはなりたくないでしょう。

 

 それよりも、あの組織に任せたら、社会が良くなった上に、拠出資金の何倍もの利潤を生み出している、配当金をまた投資に回せるし、私の名声も上がって万々歳という状態が好まれるでしょう。

 

 

このような形で資金を活かせられれば

社会全体が良くなり

資本家も満足するというわけです。

 

 

 ただし、ROEには注意点もあります。

 

まず、自己資本を一定としたまま、借入金を増やして利益を拡大した場合、借入を行わない状態よりもROEが高まります。

 

借金だらけの会社にしてしまえば(利益は生むとして)、ROE高まるのです。

事実、世界にはROE数百%というような会社も十分に存在しています。

 

次に、市場の自社株を買い上げる、いわゆる自社株買いでもROE上がります

自己資本を小さくするという手法です。

 

 

もし自社株買いを行っていないのなら、手っ取り早くROEの向上が実現できます。

 

 

 上記の2手段は、ともに損益計算書の強化には一切関連しない取り組みです。

言葉悪く言うと、狡賢いとか、テクニカルなどと言われるでしょう。

 

 

しかし、世界から投資家を呼び寄せることが必要であるのなら、

やれる手段はやってこそ

というのも市場主義経済では無視できません。

 

 

出し抜かれたら、自分が消滅するだけですから。

 

 

 米国の巨大成長企業などは、当期純利益を大きく計上し、そこから可能な限り投資家への配当金を拠出しています。

その結果来期も自己資本を高めることなく事業運営し、また大きな当期純利益を生み出し継続した高水準のROEレベルを維持するというやり方が王道になっているようです。

 

 

 

今回の「稼ぐ力」は以上です。

 

次回は、「資本活用力」です。

 

ただし、次回は年明けです。

良いお年をお迎えください。