財務指標に関する説明の6回目です。
今回は、業界分析の第6回目に用いている
「投資力」の指標です。
具体的な指標は、営業キャッシュフロー対投資キャッシュフロー比率、
そしてROIC、WACC、です。
【営業CF対投資CF比率】
〔営業CF対投資CF比率=営業CF÷投資CF〕
基本的な考え方としては、
営業CFで創出した金額内で投資CFを賄うことが妥当となります。
よってこの指標の値は、
100%以上であれば特段注意しなくても構いません。
もし、100%未満となれば、
営業CFと投資CFの合計であるフリーCFがマイナスとなります。
すると、最後の砦となる財務活動CFで、
一定のキャッシュを用立てる必要性が高まります。
以上をまとめると、営業CFで生み出したキャッシュ・インで、投資CFで投下するキャッシュ・アウトを賄えられれば、フリーCFがプラスとなり、続く財務CFで借入金や社債の返済、配当金の支払などが可能となるという流れなのです。
よって、営業CFの目標値と、財務CFのキャッシュ・イン/アウトの状況を想定し、両者にとって無理のないレベル、あるいはバランスを取りながら投資CFの支出を決定することが最も安定的となります。
ただし、時代の流れ、市場のニーズの変化、千載一遇のビジネスチャンスの到来などにおいては、当然ながらタイムリーな投資が必要になるでしょう。
そのためにも、平素からキャッシュフローの創出力の強化、保有キャッシュの金額や推移について、しっかりと把握し、「いざ鎌倉」における対応策をシミュレーションしておくことが大切です。
上場企業の中には、いままで厚く貯めてきたキャッシュを、今後数年間で思い切って投資に回す、その期間はフリーCFが赤字になるのでよろしく、というような内容を投資家に明示し、理解を得るような行動が見られます。
このように、中長期の視点からの戦略策定も重要となってきます。
【ROIC】
〔ROIC=(営業利益−法人税等)÷(純資産+有利子負債)〕
これは、一般的に「ロイック」と呼ばれる指標です。
Return On Invested Capitalの略であり、和訳すると「投下資本利益率」となります。
この指標が語ることを、上記の計算式から読み取りましょう。
まず、分母は「純資産+有利子負債」となっています。
この両者は、事業のために投入される資本です。
純資産としては、株主が出資した資本金、そして今まで稼いできた内部留保の累積、つまり繰越利益剰余金が該当します。
この内部留保は自己調達資本として、事業に投下されることになります。
有利子負債としては、金融機関などからの長短借入金、そして投資家に募る社債(長期)やCP(短期の約束手形:コマーシャル・ペーパー)となります。
次に、分子は「営業利益−法人税等」となっています。
これを読み解くと、本業による稼ぎとして認識される営業利益から、
回避不可能なコストとしての法人税等を差し引いたものとなります。
以上をまとめると、
事業のために投下した資本で、どれくらいの利益を上げているか、
という指標になります。
この値は、当然大きい方が良いことになります。
ゼロやマイナスという場合、何のための事業か、何のために資金を投下したのか、債権者から厳しく問われることになるでしょう。
そしてこのROICの指標は、次に説明するWACCと合わせて考えることで、
さらにその意義が高まります。
【WACC】
〔WACC=株主資本コスト×(株主資本÷(株主資本+有利子負債))
+負債コスト(1-実効税率)×(有利子負債÷(株主資本+有利子負債))〕
少々、理解するのに面倒な計算式となっています。
まずWACCという言葉は、Weighted Average Cost of Capitalの略であり、和訳すると「加重平均資本コスト」となります。
「株主資本コスト」とは、株主から集めた資本にかかってくる費用を意味します。
具体的には、株主資本に対する期待収益率、平たく言えば期待される配当金というイメージで良いでしょう。
次に「負債コスト」ですが、これは支払利息(金利)と考えて結構です。
このように、純資産の大半を占める株主資本、そして有利子負債については、調達のためにコストがかかるのです。
WACCは、これら調達コストが、調達資本(株主資本+有利子負債)のどの程度かを示します。
ここでROICを振り返りますが、これは稼いだ利益が調達資本のどの程度かを示すことになると説明しました。
・ 例えば、稼いだ利益が10、調達資本が100ならば、ROICは10%となります。
・そして、資本コストが12、調達資本が同じく100ならば、WACCは12%となります。
このとき、100の資本を調達して、その資本をもとに利益を10(10%)生み出したわけですが、100の調達資本にかかるコストは12(12%)となります。
これでは、いわゆる赤字という判断になりますね。
要するに、[ ROIC > WACC ]であるべきであり、両者の乖離幅をより大きくすることが望まれることになります。
以上が、WACCという指標の考え方になります。
それでは、WACCの計算式の解説に戻ります。
冒頭にあげた計算式の前段は「株主資本コスト」です。
後に述べる株主資本コストを算出し、株主資本と有利子負債の合計から株主資本のシェアを算出し、それを乗じることで加重平均値としての株主資本コストが算出されます。
続いて、計算式の後段は「負債コスト」となります。
金利としての負債コストに(1-実効税率)が乗じられていますが、これは支払利息という費用が節税効果を生むため、その分を削減して計算するためです。
あとは前段と同様に、株主資本と有利子負債の合計から有利子負債のシェアを算出し、それを乗じることで加重平均値としての負債コストが算出されます。
以上の、株主資本コストと負債コストを足したものが資本コストとなるわけです。
さらに細部を確認します。
株主資本コストは、詳しくは以下のようになります。
[ 株主資本コスト=リスクフリーレート+β(市場リスクプレミアム) ]
上記計算式の「リスクフリーレート(rf)」は、20年物の国債の利回りを用いています。
ブログでは、当該企業の直近年度決算後の3月31日のデータを用いています。
(例えば、令和3年3月31日の20年物国債利回りは0.483%となります。
財務省 HP https://www.mof.go.jp/jgbs/reference/interest_rate/index.htm
過去の金利情報から)
リスクフリーレート(rf)とは、リスクのない投資による利回りを意味します。
国債は、各種金融商品の中でも最もリスクの低い投資先となります。
民間企業の社債よりも、地方行政の公債よりも、当然ながらそう認識されるわけです。
次に、「市場リスクプレミアム」ですが、この値は6.9%としています。
これは、上記リスクフリーレート(rf)とともに「企業のための資本コスト試算マニュアル~CAPM 編 ver.1.0~明田雅昭(公益財団法人 日本証券経済研究所)」を参考にしています。
市場リスクプレミアムは、投資家が期待する利回りです。
国債等とは違い、リスクを負って投資することから、期待する利回りは当然ながらリスクフリーレート(rf)よりも相当高いレベルになります。
そして、この市場リスクプレミアムにβ値と呼ばれる値を乗じることになります。
β値とは、市場の動きに対する、その株式銘柄の変化の感度を表す値です。
例えば、市場全体が1%上昇したとき、β値が1という銘柄の株価は1%上昇することになります。
市場全体が10%下降したとき、β値が1.4という銘柄の株価は14%下降することになります。
このβ値は、分析対象の会社ごとに、ロイターのwebサイトから抽出しています。
次に、加重平均を計算するための株主資本の額は時価総額を用いており、ヤフーファイナンスの参考指標から引用しています。
負債コストに関しては、分析対象各社の有価証券報告書の「社債/借入金明細表」から、加重平均で算出しています(リースの金利は除く)。
実効税率は〔法人税等÷税引前当期純利益〕にて、会社ごとに算出しています。
以上で、業界分析に用いている財務指標の説明を終了します。