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COLUMNSブログ「論語と算盤」

財務指標-5

2022年1月17日

財務指標に関する説明の5回目です。

 

今回は、業界分析の第5回目に用いている

資金力」の指標です。

 

具体的な指標は、手元資金推移手元資金日商倍率

手元資金有利子負債カバー率総資本営業CF比率売上高営業CF比率です。

 

 

手元資金推移

〔手元資金=現金預金+有価証券(短期保有目的)〕

 

手元資金とは、上記のごとく現金・預金と、短期保有目的の有価証券の合計額です。

 

現金・預金は読んで字の如くでして、

会社がすぐにでも使えるキャッシュそのものとなります。

短期保有目的の有価証券とは、例えば財テクのために買い入れたような

株式や社債、公債などの債権をさします。

 

 ちなみに、長期保有目的の有価証券は、固定資産のその他の投資等に計上します。

簡単に売却することができない株式等になります。

具体的には、子会社や親会社の株式、顧客から保有を求められて買い入れた株式、

長期保有することを目的に買い入れた株式等となります。

 

 話を戻して、短期保有目的の有価証券とは、

     例えば今日の相場が上がったのなら、

すぐに売却・換金することが容易という性質を持っています。

 

つまり、ほぼ現金と同じような使い勝手となります。

 このことから、「手元」資金に組み込まれているわけです。

 

 この手元資金、どれだけあれば良いのかという平均額や、

必須の最低額、あるいは業界標準のようなものはありません。

 各社の特性、特に運転資金の動態に合わせて保有することになります。

 

一般的には、次に挙げる手元資金日商倍率で、

自社にとって良好なレベルを維持することになるでしょう。

 

 

手元資金日商倍率

〔手元流動性比率=(現金・預金+有価証券)÷(年商÷365)〕

 

先ほど解説した手元資金が、日商の何日分あるかというものです。

 

 現金商売と呼ばれる小売業などは、

少額であっても問題視されることはありません

販売は現金ですぐに手元に入るし、仕入は信用取引で1ヶ月後などとなるため、

他業種に比べるとキャッシュで苦労することは少ないと言えます。

 

 他方、前回の売上債権回収期間で見たように、製造業や建設業などでは、

財・サービスの提供から、その対価の現金化まで比較的長い期間が必要となります。

 

 このような場合には、2~3ヵ月分が必要になるかもしれません

 

また、コロナ禍においては、現金保有高を多くする必要性を感じた企業が多かったと思われます。

今後は、不測の事態のために

手元資金を多めに持とうとする企業が増えることが予想されます。

 

 他方、投資家の観点からは、現金を溜め込むのは何のメリットも無い

配当に回すか成長に向けた投資に投下すべきというような意見が出てくるでしょう。

 

上場企業の場合は、このような場面での舵取りも重要となります。

 

 

手元資金有利子負債カバー率

〔手元資金有利子負債カバー率=(現金・預金+有価証券)÷有利子負債〕

 

これは、手元資金で有利子負債をどの程度カバーしているかを表す指標です。

 

 100%カバーできる状態を「実質無借金経営」と呼びます。

手元資金で、すぐにでも有利子負債を返済できるからです。

 

 ちなみに「完全無借金経営」とは、

一般的には、有利子負債が一切無いという状態をさします。

 

 我が国の上場企業は、

2019年あたりから「実質無借金経営」が半数以上を占めるようになったそうです。

 

これは、景気の見通しが立てづらく、先行きが不透明、

     つまり成長領域が見いだせないまま時間だけが過ぎ去り、

現状維持を図るしか手立てがなかったという近年の経済状態のせいと思われます。

 

 また、借金を増やすことにリスクも感じ、

キャッシュを溜め込んでおこうという意向も影響したのでしょう。

 

事業の成長には資本がかかります

その資本を増やしていないということは、それはすなわち

成長できていない、リスクをとれていない、ということの証と言えるでしょう。

上場企業には、積極果敢な次代の開拓

挑戦心とバイタリティー溢れる活動が期待されます

 

 

総資本営業CF比率

〔総資本営業CF比率=営業CF÷総資本〕

 

 これは、事業に投下した総資本で、

どれだけの営業キャッシュフローを生み出したかを表す指標です。

 

 営業キャッシュフロー(CF)の構成要素は、

簡易的には、当期利益と減価償却費の合計とされます。

しかしながら、売上債権残高や棚卸資産残高などの増減も結構な影響を与えます。

 

それらの項目について、

マネジメントが奏功したのなら営業CFは大きく得られるはずです。

 

 それとは逆に、売上は増えたもののマネジメント面がおざなりなら、

利益が生み出せなかったり債券残高や在庫が増えたりして、

営業CFが減少することも十分あり得ます。

 

いかに、マネジメントされているかという側面も垣間見ることができると言えます。

 

 

売上高営業CF比率

〔売上高営業CF比率=営業CF÷売上高〕

 

 こちらは、売上高によって

どれだけの営業キャッシュフローを生み出したかを表す指標です。

概ね、先ほどの総資本営業CF比率と似たコメントになります。

 

 なお、売上高利益率については多くの会社がしのぎを削っているようですが、

営業CFの創出という点になると、まだまだ改善の余地がありそうです。

 

今まで見てきた業種の各社においても、

営業CFの指標になると途端に乱高下するケースが散見されます。

 

これはすなわち、まだまだマネジメントが浸透していないことの裏返しと考えられます。

 

 

今回の「資金力」は以上です。

 

次回は「投資力」に焦点を当てます。