Loading

COLUMNSブログ「論語と算盤」

財務指標-4

2022年1月13日

財務指標に関する説明の4回目です。

 

 今回は、業界分析の第4回目に用いている

資本活用力」の指標です。

 

  具体的な指標は、総資本回転率売上債権回収日数

棚卸資産回転日数流動比率自己資本比率となります。

 

 

2回目で解説しましたが、総資本経常利益率を分解すると、

売上高利益率資本回転率という2つの系統に分かれます。

 

前者の売上高利益率は第2回で解説しましたたので、

今回は後者の「資本回転率」の各指標を中心に解説します。

 

 

総資本回転率

 〔総資本回転率=売上高÷総資本〕

 

 経営に投下した総資本の何倍の売上高を上げたかという指標です。

回転率という名称のように、単位は「回」となります。

 

 10の総資本で、20の売上を上げる企業と、

        同じ10の総資本で、30の売上を上げる企業では、

後者の企業の方が総資本の活用効率が高いと言えます。

 

よって、この値は大きい方が良いということになります。

 

ただし、薄利多売で売上が大きいということもありますので、

      当然ですが利益的側面やキャッシュ的側面など、

他の指標と合わせて判断することが大切です。

 

 

売上債権回収日数

〔売上債権回収日数=売上債権残高÷日商(売上高÷365)〕

 

 売上債権とは、売掛金を中心に、受取手形電子債権などをさします。

 

営業未収入金というような表現もありますが、

要するに、財・サービスを提供したものの、

その代金をまだ受領していない状態のものです。

 

 算出式は、この売上債権の残高

日商でいうと何日分なのかを示すことになります。

 

 企業間取引の場合、通常では例えば「月末〆の翌月末に現金100%」というような

取引条件が多いものと思われます。

 

しかし建設業や製造業では、同じく月末〆ではあるものの、

翌月末に手形100%、サイト60日などという取引条件も散見されます。

これは、財・サービスを提供した月で締めて、

翌月の末に「60日後に支払う」旨を明示した手形を受領するということです。

 

つまり、財・サービスを提供した後、

最短で90日後、最長で120日後に現金を受け取る条件です。

 

ずいぶんと長期になりますが、これは業種特性です。

 

最終の財・サービス提供者が対価を受け取るのに時間がかかる場合、

どうしてもその上流の供給者(サプライチェーン構成企業)にも

同等のしわ寄せがくるというわけです。

 

 結論として、この指標は短期間であるほど資金繰りが楽になります。

 

できれば「月末〆の翌月末に現金100%」、あるいはそれより短期にしたいものです。

 

昨今広がりを見せるサブスク・ビジネスでは、ほとんどが実質的な前払制です。

一月分の代金を先に払って、その月のサービスを受けられるという構造が中心です。

 

Web上でのインターネット・ショッピングでも、

多くの場合、購入時にキャッシュレスの手段で支払っています。

 

近年注目されがちの産業におけるビジネスモデルは、

供給者の代金回収期間が短い決済が多く見られます。

 

 

棚卸資産回転日数

 〔棚卸資産回転日数=棚卸資産残高÷日商(売上高÷365)〕

 

 先ほどの指標と同じように、

日商の何日分の在庫を持っているかという指標になります。

 

こちらも短期間である方が、資金繰り面では有利になります。

 

この指標が長期化するということは在庫が増えるということであり、

その対価であるキャッシュが出ていったということです。

 

 JITJust in Time)の御本家はトヨタ自動車です。

トヨタ自動車は、キャッシュ面の効果も多大でしょうが、それは結果論であり、

製造工程の合理性や効率面を追求した故の成果と捉えた方が適切です。

 

だからこそ、仕掛品さえ撲滅するというレベルにまで達しているわけです。

(ここは専門的な領域なので、割愛いたします。)

 

 

流動比率

〔流動比率=流動資産÷流動負債〕

 

 ブログの中でも何度か断っていますが、

この指標は通常、安全性の指標として捉えられています。

 

1年以内に返済する必要のある流動負債を、

1年以内に現金化すると想定される流動資産で、きちんと賄えているか、

そうでない場合、短期(1年以内)の資金繰りが懸念されるという観点です。

 

以上から、この指標の値は100%以上が必須とされています。

 

 当ブログで、資本活用力というカテゴリーで触れている理由ですが、

   上記の背景を踏まえつつ、調達した資本が適正に運用されているか、

   資本が正しい運用方法で活用されているのか、

   そして資本構成に問題はないか、という確認のためです。

 

よって、長期資本と固定資産のバランスにも触れる必要性が出てきますが、

以下の理由から2度手間になるため割愛しています。

 

流動比率が短期の支払能力を表すのに対して、

長期の支払能力を表すものの代表格は、固定長期適合率となります。

 

流動比率100%以上で良好な場合、

必然的に固定長期適合率100%以下という良好なレベルを示し、

流動比率100%未満と良くない場合、

必然的に固定長期適合率100%超という良くないレベルを示すからです。

 

 

 自己資本比率

 〔自己資本比率=自己資本÷総資本〕

 

 経営に投下した総資本のうち

返済が必要ない自己資本がどれだけの割合を占めるかを示す指標です。

 

こちらも、長期の支払能力のレベルを探るという側面から、

安全性指標として取り上げられることが一般的です。

 

 資本活用力として捉えているのは、主としてROEとの兼ね合いです。

 

外国人投資家や、国内でもアクティビティと呼ばれる投資家(物言う株主)に対してアピールするのなら、ROEの値を高めることが必要になってきます。

 

逆に、事業領域が国内のみという場合は、あまりROEは重視されていません。

 

よって、分析対象の当該企業が、

以上のような点をどの程度意識しているかを確認するためです。

 

 以下のようなちぐはぐな企業も存在しているわけです。

  ・外国人投資家を呼び込んだ方が良いだろうに、自己資本比率が妙に高い

  ・ドメスティックな事業にもかかわらず、やけに自己資本比率が低い

 

 

 

今回の「資本活用力」は以上です。

 

次回は「資金力」です。