深沈厚重は是れ第一等の資質。磊落豪雄は是れ第二等の資質。聡明才弁は是れ第三等の資質。〔性命〕
(どっしりと深く沈潜して厚み・重みがあるというのはこれは人間としての第一等の資質である。大きな石がごろごろしておるように、線が太くて物事にこだわらず、器量があるというは、これは第二等の資質である。頭が良くて才があり、弁が立つというは、これは第三等の資質である)
<出典:『呻吟語を読む』安岡正篤著 致知出版社>
以前、瀬島龍三氏(※)について、部下だった方から話を聞いたことがあります。
氏は、取締役会における決断の場において、多様な意見を発する役員全員の主張に黙って耳を傾けた上で、最後は自身の決断によって方向性や方策を決めていったそうです。
このとき、自説が採用された役員は鼻高々ですが、そうでない役員たちは落胆します。
彼らに対して氏は、個々の役員室に自ら足を運び、今回の決断に関する判断基準等を伝え、落ち込んだ気持ちや面目がつぶれたようなイメージを払しょくしていったそうです。
その信念、深い思いやりは、役員たちの心の琴線に触れ、意欲を奮い立たせたことでしょう。
そのため、自説と違っていようが、全身全霊でことに対処していったそうです。
※ 瀬島龍三(1
深沈厚重とは、このように、決断の場面などにおいて、どの方策をとることが有望なのかを見定めるために、関与する一人ひとりの心や情熱の動きを測り、尊重し、それを活かすことができる人物としての器といえます。
加えて、割を食った人々には後々動機づけを行い、その決断を理解させ、納得させ、反対に全面的な協力をさせるように仕向ける、そんな配慮が行える人物と言えます。
もちろん
多くの人から尊敬
信頼されているという
バックボーンがあってこそです
人物を練り上げてこその
第一等の人物像であり
一朝一夕に
仕上がるものではありません
磊落豪雄とは、その人物が持つパワーが強く、道理に沿った考えを基にした方策を自らが定め、部下を奮い立たせて率いていくイメージでしょうか。
大雑把ではあるでしょうが、異論を見出すことが困難な道理に沿った判断・決断であるが故、共感し納得した部下達の心には火が灯されることでしょう。
やはり
その人物がリーダーである
それを周囲が認識している
それだけの実績があること
これらが欠かせない要件です
聡明才弁は、思考に切れがあり、重要な場面でもしっかりと訴求・説明できるような弁の立つ人です。
いわゆる “ 頭の良い人 ” 、“ 優秀な人 ” のイメージです。
温情の要素が少ない唯物的な場、例えば裁判所における検事や弁護士としての振舞いに似たものと考えられます。
大切な役割を果たしますが、関係者や周囲の人への影響力は大きくなく、理解を促すことに留まります。
納得を得られるでしょうが、その場限り。
人々の心を揺さぶり、一枚岩にしていくような効果は見込めません。
今後この立場は
AI(人工知能)に
取って代わられそうです
私見ですが
歴史上の人物である
西郷隆盛や二宮金次郎は
深沈厚重と磊落豪雄という
二つの資質を併せ持っていた
そう感じます
安岡師は、この言の解説の終盤にこう記しています。
「聡明才弁の人はとかく鋭角的になり過ぎる。したがって自己を磊落豪雄につくるように修養しなければならいのですけれども、そうするとどうも人間は気負う。だからやっぱり深沈厚重の徳を養うことを第一にしなければならない。深沈厚重の徳を養うて初めて本当の磊落豪雄にもなるわけで、そうでないと偽豪傑のようになってしまいます。」
修養の方向性です。