子貢曰わく、夫子の文章は得て聞くべきなり。夫子の性と天道とを言うは、得て聞くべからざるなり。〔公冶長第五〕
(子貢が言った。
「先生の四書礼楽や国の制度等についてはいつでも聞くことはできるが、人の本質や宇宙の原理などのお話は聞くことができない」)
<出典:「仮名論語」伊與田覺著 致知出版社>
人物が完成するには時間が必要であり
ああだこうだと教えてところで
君子はでき上りません。
教え込まれて成人しても
それは操り人形でしかなく
何の益ももたらさないでしょう。
政、制度、取り決め事などは、紙に書いて貼っておけば、熟練度や洗練さは異なっても、誰でも実行することは可能です。
しかし人間の本質はそうはいきません。
単に道に迷っているのなら教えてあげればよいでしょう。
荷物が重いのなら、半分持ってあげるなり、手伝えば済むでしょう。
しかし、お金に困っているとしたら、どうしますか。
安直にお金を恵んであげればよいのか。
怠惰な生活に起因した現状なら、同じことの繰り返しになるかもしれません。
仕事を紹介し、コツコツと働いて、未来を自らが創り上げる方向へ誘う、それをなすべきか。
一概には言えません。
同じように、人生の岐路に立っている人への助言も難しいものです。
一人ひとりの人生に、進むべき答えなどないのですから。
自分が決めた理想
腹の底から信じられる思い
そういう道を進むことしかできないのです。
以前、職業の選択に迷った人がいました。
決して無能な人ではないのですが、今のままなら、やがて困窮するであろう状態でした。
いろんな人に相談していたようですが、気になったのは、その人の腹の中に欲が窺えることでした。
それは、過去より今後を良くしようというイメージです。
今、困窮が迫ってきている局面なのに、今まで以上の場所に這い上がろうとする。
相談を受けた人とすれば、一層対処に困るわけです。
しかし、本人は瀬戸際に立っているようで、その表情や言動から切実さが伝わってきます。
真剣に悩んでいる様子であり、皆、何とかしてあげたいと思っていました。
そんなとき、ある年長の人が穏やかに、そして笑顔で伝えたのです。
「もっと悩みなさい。
悩んで、悩んで、悩み切った後に、
一つ残るものがある。
それがあなたの進む道だ」、と。
その瞬間、彼は茫然としていましたが、それからは知人に相談しなくなりました。
そしてその後、彼は次の扉を開くことができたようであり、日々の仕事に意欲を持って取り組み始めました。
他人が何をどう言っても
伝わらないものは伝わりません。
自分で気づくこと
これに勝る助言はありません。
「人生は何をキャッチするか。
同じ話を聞き、同じ体験をしても、そこからキャッチするものは人により千差万別である。
キャッチするものの中身が人生を決める。」
<出典:「『致知』総リード特別篇 人生の法則」
藤尾秀昭著 致知出版社>
人間の問題は
一般的な原理原則の類で
語ることはできません。