名と身と孰れか親しき。身と貨と孰れか多き。得と亡と孰れか病ましき。是の故に甚だ愛すれば、必ず大いに費ゆ。多く藏すれば必ず厚く亡ぶ。足るを知れば辱しめられず。止まるを知れば殆からず。以て長久なる可し。〔名與身章第四十四〕
(名誉と自分の身体、これはどちらが自分にとって切実なものであるか。
自分の体と宝、どちらが価値が多いか。
また、得をするということと、何かを無くすということ、これはどちらが苦の種になるか。
だから名誉ということをひどく愛すれば、必ずひどく自分の精神力を消耗させることであろう。
宝物をたくさんたくわえておれば、なくすときには必ず、ひどい失望があるであろう。
だから(ここまでが伏線で、下の三句が重要だと注釈者はいう)足ることを知れば、恥をかくことがない。一定のところで踏みとどまることを知れば、危険に陥らない。かくてこそ、いつまでも長く生きることができるであろう。)
<出典:「老子講義録 本田濟講述」読老會編 致知出版社>
心の安らぎこそ幸福
悲しみはもとより、喜びさえ安らぎではありません。
しかし人は、喜びたいし、楽しみたいと願います。
またそれに欲が加わると、名誉や財宝を欲しがるようになります。
それらを手に入れても、後に失う事態に直面します。
落胆し、絶望し、悲しむことに・・・
老子の示す“道”は、喜びや悲しみは起伏でなく、すべてを平坦なものとして飲み込んでいるものなのでしょう。
“天”、“道”から与えられたこの命を充分に使い切るには、
❖ 大きな喜びを求め、大きな悲しみでそれを返すか
❖ 小さな喜びを見出し、小さな悲しみをも味わうか
どちらが良いのでしょう。
今日の言葉の後半三句は、千年も万年も役立つ、尽きることのない教えとのこと
つまり、足るを知ることで見っともない姿をさらさないこと、歩みを止めて危険を避けること、これが長く生きる秘訣であると
動植物の営み、人々の営み、大自然の営み
その中に穏やかな心の安らぎを見出し
それぞれが助け合い
無用な体力の消耗を避けて
人生を全うする
多くの人がこう生きれば
地上から争いごとは無くなる
物の消費と便利さを追求する
“文明”は発展せずとも
豊かな心から生まれる
“文化”は充実する