ビール業界の6回目、最終回です。
今回は、「投資力」の分析です。
取り上げる指標は、営業CF対投資CF比率、
各社別の営業/投資CF推移、ROIC、WACCとなります。
なお、各指標についての説明はこちらです。
【営業CF対投資CF比率】
〔営業CF対投資CF比率=営業CF÷投資CF〕
サントリーの4期間は、100%中盤~200%中盤となっており、比較的安定しています。
アサヒGは、2020.12期においてCUB事業の買収で大きな投資を行っています。
直前期では一転して投資を控えているように見えますが、後述するように、実際はそうでもありません。
キリンの2018.12期は、投資CFが正の値になったため便宜上100%としています。
その後の3期は投資CFが抑制されているように映りますが、必ずしも実態はそうではなく、後ほど内訳を確認することとします。
サッポロは、営業CFに占める投資CFが高まりつつありましたが、直前期では投資CFが正の値になりました。(便宜上100%としています)
では、各社ごとに見ていきましょう。
【各社別 営業/投資CF推移】
〔実額ベース〕
サントリーは、3期連続で投資CFが増加しています。
それに充分見合った営業CFを生み出しているため、FCF(フリーキャッシュフロー)も比較的安定した推移となっています。
この4期間における投資CFは、そのほとんどが有形/無形固定資産の取得によるものとなっています。
アサヒGは、営業CFを3期連続で増加させています。
2020.12期の投資は、ほとんどがCUB事業の買収です。
このCUB事業の買収によって、2021.12期の高い業績を得られています。
なお、直前期の2021.12期では、例年並みの有形/無形固定資産の取得を行っていますが、同時に有形/無形固定資産や投資有価証券の売却による収入も比較的大きく生じており、投資CFとしての支出が抑制されています。
キリンは、2019.12期の投資CFの急増が目立ちます。
投資CF総額である約1,756億円のうち1,345億円が㈱ファンケルへの資本参加によるものです。
32.93%の株式を取得しており、ヘルスサイエンス事業の立ち上げと強化の取り組みの一環です。
直前期の投資FCが少なくなっていますが、これはオセアニア飲料事業の売却による収入が大きかったためであり、有形固定資産などへの投資は継続されています。
サッポロは、直近2期において、それ以前より有形固定資産への投資がやや減少しました。
2020.12期では、それに加えて投資不動産への支出も減少しました。
また2021.12期では、有形固定資産や投資不動産への投資をやや増加させましたが、2018や2019.12期よりは少なく、さらに投資不動産の売却で約404億円の収入があったため、投資CFがプラスになりました。
なお、グループ経営計画2024において、営業CFと同程度の投資を行って収益力の強化を図ることとしています。
【ROIC】
〔ROIC=(営業利益−法人税等)÷(純資産+有利子負債)〕
トップのサントリー、2番手のアサヒG、3番手サッポロの3社は、ともに2020.12期において悪化しましたが、直前期では挽回しています。
キリンのみ、2020.12期で上昇し、直前期で下落しています。
なお当社は、中期経営計画における2024年度の目標として、ROIC=10%以上を掲げています。
【WACC】
〔WACC=株主資本コスト×(株主資本÷(株主資本+有利子負債))
+負債コスト(1-実効税率)×(有利子負債÷(株主資本+有利子負債))〕
サントリーのWACCは参考値です。
サントリーHD株式会社は非上場企業なので、捉えきれないβ値と株主資本の値は、サントリー食品インターナショナル株式会社(HDの中核企業)の値を用いています。
そのため、整合性に不備があります。
アサヒGは、WACCとROICの値がほぼ同じになりました。
今後は、ROICの拡大が期待されます。
キリンのWACCは、ROICを大きく上回ってしまっています。
有利子負債の活用が少なめであることも影響していますが、やはりROICの拡大が必要でしょう。
サッポロも〔ROIC-WACC〕の値がマイナスになっています。
WACCの値は決して悪くないので、他者同様にROICの拡大への取り組みが望まれます。
今回、この業界で特に気になったのは、
清涼飲料とアルコール類以外への事業展開が各社各様ということでした。
◆サントリー:健康食品
◆アサヒG :海外展開
◆キリン :医薬健康
◆サッポロ :不動産
今後の各社の動きは興味深いものになると感じます。
以上で、ビール業界を終了します。
※当サイトの「注意・免責事項」ご確認ください。