売上原価について、現実的な側面および粉飾決算についてコメントします。
先回、売上原価の算出式が重要であることを述べました。小売・卸売業などの算出式を再掲します。
【売上原価=期首商品棚卸高+当期商品仕入高-期末商品棚卸高】
製造業では、【売上原価=期首製品棚卸高+当期製造原価-期末製品棚卸高】となります。
この真ん中の「当期製造原価」の求め方は、まず材料費を【期首在庫+当期仕入-期末在庫】で算出し、それに労務費・外注加工費・製造経費を加算したものに期首仕掛品在庫高を加え、そこから期末仕掛品在庫高を差し引いて求めます。
つまり、【期首+当期-期末】という計算式を必要に応じて用いることで、
適切に原価を算定するわけです。
ところで、過去にコンサルティングした製造業で、次のような悩ましい事態が生じました。
その会社の自己資本比率は50%超で、優秀な状況だったのですが、リーマン・ショック、その後の東日本大震災などにより、数年間が最終赤字となり、それが内部留保され、自己資本比率が急低下していました。キャッシュも減少するため、金融機関からの借入も増えてきていました。
ある年、客観的に考えて、いよいよ債務超過に陥るだろうという予想が立っていました。ところが決算書を見せてもらうと、PLでは最終利益が黒字になっているのです。そこでBSを確認したところ、「棚卸資産」の勘定が膨らんでいました。
売上高と他の経費の状況からは、棚卸資産の残高が過去のレベルであったならPLは赤字、そしてBSは債務超過になっている構成です。もし仮に、上述した売上原価算出式において、マイナス要因の「期末棚卸高」を実際以上に膨らまして計上していたなら、その分だけ売上原価が下がるため、利益が生じたという可能性がうかがえます。
なぜそんな架空計上をしたのか?
動機とすれば、数年間最終赤字が続き、さらに債務超過となれば、
金融機関の融資姿勢も厳しくなるということが挙げられます。
事業に対する姿勢は本当に真面目な経営者です。
ただし、一般論として、財務面に明るい経営者は極めて少数であり、この会社もご多分に漏れません。
例えば、「社長、また赤字になりそうです。ただ、在庫が〇〇円あれば何とか黒字になりますが?」に対して「えっ!? あぁ・・・、あるよ、あるよ。」と安易に対応してしまったのかもしれません。
もしそうなら、架空計上した分の在庫について、将来のある時点で実態に合わせて減らすという取り組みは容易ではありません。このあたりをいい加減に対応して、在庫高がべらぼうに膨らんで「お助けコンサルティング」を依頼された経験も複数あります。
上述した経営者は、真面目な経営姿勢が認められており、販売先はもとより、金融機関、さらには仕入先にも信頼が厚いのです。
しかし、世の中の情勢が大きく変化し、業績の変動幅が大きくなった時などには、財務面の仕組みを理解していないと将来に禍根を残しかねません。
もし上記の想定どおりであった場合、この経営者には悪意があったのか?
当時、大変悩ましく感じたのです。
しかしソクラテスは言います、「無知は悪」と。
経営は、安易な考えでは上手くいきません。
その反面、渋澤栄一が示す「論語と算盤」のごとく、「使命感や人的パワー」と「財務面の知見の深さ」があれば、経営状態は安定するはずです。
これが必要条件です。
では、十分条件は?
それは、扱う「財・サービス」の価値と「市場のニーズ」ではないでしょうか。
次回も引き続き、損益計算書を進ていきます。