電子部品業界の6回目、最終回です。
今回は、「投資力」の分析です。
取り上げる指標は、営業CF対投資CF比率、
各社別の営業/投資CF推移、ROIC、WACCとなります。
なお、各指標についての説明はこちらです。
【営業CF対投資CF比率】
〔営業CF対投資CF比率=営業CF÷投資CF〕
京セラとTDKは、大きく上下しており、また直前期で低下しました。
一方、村田製作所と日本電産の変動はそこまで大きくはなく、
直前期は上昇しています。
値の上昇は、営業CFの拡大、あるいは投資CFの減少など、一概には優劣を付けづらいので、それぞれ確認していきます。
【各社別 営業/投資CF推移】
〔実額ベース〕
村田製作所は、3期連続で営業CFを拡大しています。
投資CFは、2019決算期でかなり増加させましたが、
その後2期連続で縮小しています。
以上から、FCF(フリー・キャッシュフロー)は2期連続で増大しています。
このことは、前回見た手元資金の増加につながっています。
日本電産は、安定的に営業CFを生み出しており、
特に直前期の創出額は大きくなっています。
2020決算期の投資CFが大きく膨らんでいますが、
これはM&A(事業取得による支出)とのことです。
当社の基本的な経営戦略が、革新的変化の生成と新市場のニーズへの素早い対応であることから、今後もM&Aに積極的に取り組んでいくのでしょう。
京セラは、直近の3期において、
営業CFが2,000億円強のレベルで安定しています。
一方、投資CFは直近2期で増加させており、
積極的な事業展開の姿勢がうかがえます。
内容は、有形固定資産への投資やM&Aへの支出となっています。
TDKは、3期連続で営業CFを増大させています。
一方、投資CFは2018決算期から2期連続で縮小していますが、これは関連会社の売却によるキャッシュ・インや短期投資の抑制などが主因となっています。
これらの施策で手元資金を積み上げた上で、直前期は一転、
短期投資や固定資産への支出を増やしています。
また、関連会社の売却も抑制しており、
事業成長に舵を切る姿勢が垣間見られます。
【ROIC】
〔ROIC=(営業利益−法人税等)÷(純資産+有利子負債)〕
事業への投資総額から、どの程度の利益を生み出したかの指標ですが、
ここでも村田製作所が他の3社を引き離しています。
営業利益額や営業利益率のグラフと同様、奇数年決算期に上昇しています。
ただし、直前期の値は2019決算期を下回っています。
これは、営業利益額が17.4%増えたのに対し、純資産(株主資本)が19.8%増加したこと、また金額としては小さいのですが有利子負債も22.1%増加したためです。
日本電産は、繰り返し述べてきましたが、2期連続で低下した後、直前期で挽回するというスタイルがここでも見られます。
直前期における営業利益額の増大が、各種の指標を良化させています。
僅差でTDKが3番手です。
4.5%以上というレベルで、安定しています。
ただし、わずかながら低下傾向ではあります。
京セラは、4期間を通じて最下位に甘んじており、
また2期連続の低下傾向を示しています。
総資産が4社中最大であり、資金力も強いため、改革・変革による業績良化が大いに期待されるところです。
【WACC】
〔WACC=株主資本コスト×(株主資本÷(株主資本+有利子負債))
+負債コスト(1-実効税率)×(有利子負債÷(株主資本+有利子負債))〕
先ほどのROICからWACCを控除すると、
村田製作所以外の3社はマイナスとなります。
マイナスということは、投資総額からのリターンが、投資総額の調達コストを下回っているということです。
村田製作所は、そもそもROICが高いレベルであることに加え、WACCではβ値が低めであることから株主資本コストが抑制されています。
日本電産は、WACCの値が最も大きくなっています。
これは、β値が高いことから株主資本コストが大きくなっているためです。
京セラは、WACCが4社中最も低く、資本調達力が良好と言えます。
しかしながら、ROICが低すぎて、結果的にマイナスになっています。
TDKは、WACCの値が2番手と、コスト高になっています。
β値が高いため、株主資本コストが高くなっていることが主因です。
今回、この業界で感じたことは、
各社それぞれ全く違った状況にいるということです。
村田製作所は、あらゆる面において良好な推移を見せており、
今後の継続、さらなる上昇をいかに実現するかが課題となりそうです。
日本電産は、直前期の挽回は力強く感じますが、
今後の動向についても気になるところです。
京セラは、上述したように、新たな成長に向けた
何らかの取り組みが求められていると感じます。
TDKは、次第に力を蓄えてきているようであり、
その一角が見え隠れしています。
以上で、電子部品業界を終了します。
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