その他流動資産の2回目です。
今回は、その他流動資産の短期貸付金について取り上げます。
なお、仮払金もほぼ同様となりますので、説明は割愛します。
先回お断りしたように、問題となるのは、上場企業や会社法上の大企業以外です。
そして、残高全てが問題というわけではありません。
経営面・財務面の管理体制が野放図であったりすると問題視される事態になります。
具体的には、銀行融資が滞る、株式公開(株式上場)が不可能になる、
会社売却での事業承継が不可能になる、などという事態です。
短期貸付金とは、その会社が、第三者(法人・個人を問わず)に貸し付けたお金の残高を表しています。これは、やがて返済してもらうことを前提とした債権であり、通常考えられるのは、例えば子会社や取引先に貸すという場面です。
借用書(金銭消費貸借契約書)などがある場合は問題ないと判断されます。もちろん、借りる側が、何で銀行ではなくこの会社から借りたのかという疑問は少々生じますが。
一方、非上場企業で多く見られるのが、使途不明金について、とりあえず短期貸付金(仮払金)という勘定科目で処理するというものです。このとき、多くの場合、貸付先が代表取締役(社長)になります。
これは、経費であるにも関わらずエビデンス(領収書等)が無いために使途不明金と認識せざるを得ない場合などにおいて、社員に貸し付ける形は良くないので、ひとまず社長に貸し付けたことにし、後で処理しようという思いから生じます。
漠然と、妥当な応急処置と感じるかもしれませんが、速やかに対処しておかないと、時間が経つほど原因追及と処理が困難になります。そうなると残高は残ったまま、あるいは翌年も同じことが生じたなら増えてしまいます。
決算作業は大忙しなので、とりあえず短期貸付金での処理で乗り切っておこうとなりがちです。しかし、チリも積もれば山、気づいたときには多額になっているかもしれません。
経営者の方は、このような理由からも、貸借対照表をしっかりと理解しておくことが肝心です。
さらに、意図的なケースもあります。その会社の者(例えば社長や役員)が、社用ではない旅行や酒宴の費用を、旅費交通費や交際費で処理しようとするケースが典型です。その本人は経費で落とそうとするわけですが、エビデンス(証明・証拠)が無く、比較的金額が大きければ、担当の税理士や会計士は経費での処理を認めてくれません。
その理由は、税理士など国家資格を有する会計専門家は、その会社の決算について公正に処理したと証明して税務署に申告するのですが、そのとき、本当は経費として認められないものを経費として申告し、それに税務署が気づいた場合、立場が悪くなるからです。そうなると、税理士自身の顧客企業に対して税務署の査察がバンバン入ってくることになり、顧客が離反してしまいます。
つまり、税理士等の専門家は、報酬はその企業からもらうものの、その企業の不公正な要求には与しないという高い倫理観が求められているのです。
以上から、経費で処理する目論見は外れるわけですが、現金が会社の口座から既に引き出されているなら、会社のキャッシュが減っていますので、何らかの処理が必要になります。
そこで短期貸付金のお出ましとなります。その者から会社に返済がなされないままで決算を迎えると、短期貸付金に計上されます。
その者が社長でなければ返済を強く要求できるでしょうが、社長ならそうはいきません。もとより、ここまでの流れを認識しているのは、多くの場合、社長・経理責任者・税理士の3名です。経理責任者は雇われの身であるため強くは言えず、税理士は適正に決算処理さえすれば責務は果たしたことになります。
よって、このような不適正な短期貸付金の残高は、改善へのプレッシャーが強く働かず、翌年以降もそのまま残ったり(もはや短期ではないが)、悪い場合は増えていったりします。
さて、冒頭で触れましたが、短期貸付金や仮払金の残高が問題となる理由を説明します。
- 銀行融資が滞る・・・不明瞭資産と認識される短期貸付金等が存在する場合、融資額が事業以外に流れる可能性があると見なされます。要するに、公私混同あるいは経営管理不足の会社と認識されるのです。
2000年入り後、中小企業への融資はかなり緩やかになっていますが、マイナス金利などの景気対策やコロナ対応によって金融機関も疲弊してきており、そろそろ厳しくなる可能性があります。そうなると、その他流動資産のクリーンアップが必要になるかもしれません。
なお、クリーンアップの手段は、債務者が当該金額を会社に返済するしかありません。会社の貸付先が社長だったなら、債務者は社長になります。社長が100%出資のオーナーだとしても、会社は法人格として法律で与えられた人格を有するため、「人格」を持つ社長から「法人格」を持つ会社への支払が必要なのです。社会において「個としての資格」を有する者同士の貸借関係です。
- 株式公開が不可能になる・・・上記の銀行の考え方と同じであり、投資家の投資資金が危険に晒されるためです。担当する監査法人が許可しないので、上場の場合、証券取引所も相手にしません。
- 会社売却による事業承継が不可能になる・・・その会社を買う側にとって、返済されそうにない債権はリスクです。そのため、その他流動資産の金額分をマイナス評価します。売る側とすると、期待した売却額にはならなくなります。ハッピーリタイアメントを考えている経営者は、その他流動資産の残高明細ついて、ぜひ確認しておいてください。
かなり長くなりましたが、今まで4回にわたって述べてきたように、
流動資産は下手を打つと厄介ですので、ぜひ注意しておいてください。