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COLUMNSブログ「論語と算盤」

貨物運送業界-4

2021年12月9日

貨物運送業界4回目、「資本活用力」です。

 

取り上げる指標は、

   総資本回転率売上債権回収日数棚卸資産回転日数

          流動比率自己資本比率です。

 

 

 ではまず、総資本回転率からみていきましょう。

 

〔総資本回転率=売上高÷総資本〕

 

 これは、経営に投下した総資本(負債という他人資本と、純資産という自己資本の合計)の何倍の売上高を上げたかを表します。

例えば、同じ総資本である場合、売上高が大きければ、

資本を上手に活用して売上高を稼いだと考えられます。

 

 グラフでは、トップがSGHD、続いてヤマトHD

そして日本通運、日立物流という順番になっています。

 

 SGHDは、総資本と売上高がともに3期連続で増加しており、

さらに直近2期については、売上高の伸び率の方が大きくなっています。

 

 ヤマトHDのグラフはほぼ右上がりの直線に見えます。

3期連続で売上高が伸長している一方、

総資本が直近2期連続で減少している点も特徴的です。

この総資本の減少は、主として有利子負債の削減によるものです。

 

 日本通運は、2019.03期こそ、売上高伸長率が総資本伸長率を上回りましたが、

直近2期連続で売上高は減少しており、

総資本の伸び率の方が大きくなってしまいました。

 

 日立物流は、2019.03期の総資本6,100億円が、翌2020.03期に約8,800億円へと、2,700億円ほど増加しました(増加率143.5%)。

2020.03期は売上高が前年比で5%ほど減少しており、両者の変化の結果として、総資本回転率が大きく低下することとなりました。

 なお、総資本が急増したのは、IFRS第16号「リース」適用の影響によるとのことです。

 

 

 次は、売上債権回収日数です。

〔売上債権回収日数=売上債権残高÷日商(売上高÷365)〕

 

 売上債権の回収期間は、当然ながら早期である方が資金的余裕を得られます。

よって、短期間であるほど資金効率が良いことになり、

投下した総資本を効果・効率的に活用していることになります。

 

 2020.03期まで、全4社が短縮の方向に向かっていましたが、

直近ではヤマトHDを除いた3社が長期化してしまいました。

 

 ヤマトHDについては、売上債権の中に「リース債権及びリース投資資産」を加算して計算していますが、直前期においてヤマトリース㈱を連結の範囲外としたことにより、この債権が売上債権から除外されることになりました。

2020.03期における「リース債権及びリース投資資産」残高は540億円程度もあったので、比較的大きな影響となったわけです。

 ただし、「リース債権及びリース投資資産」を除いた売上債権残高においても、3期連続で減少させています。

売上高は3期連続拡大しているため、

何らかの手立てで、この指標を良化させたものと想定されます。

 

 残る3社のうち、日立物流フォワーディング事業の急増によるものと有価証券報告書に記載されています。

 

 日本通運SGHDは、特に増加の原因への言及はなされていません。

 

 日立物流、そして日本通運は、売上高が減少する中での売上債権の増大ということであり、資金効率が低下したと判断されます。

 

 

 次は、棚卸資産回転日数です。

 

〔棚卸資産回転日数=棚卸資産残高÷日商(売上高÷365)〕

 

 売上債権回収日数と同様に、短期間であるほど資金効率が良いことになります。

 

ただし、業種がら基本的に在庫(棚卸資産)は極少と想定され、

指標を計算した結果もその想定どおりであることから、特にコメントはありません。

 

 

 続いて、流動比率です。

 

毎回述べていますが、通常、流動比率は安全性の指標とみなされています。

ここでは、資本の活用度合い、資本の効率的運用という側面から捉えます。

 

〔流動比率=流動資産÷流動負債〕

 

 4社とも100%超であり、かつ安定的でもあることから、財政上健全な状態と言えます。

資本は上手く活用していると判断できるでしょう。

 

 日立物流2019.03期が目立ちます。

これは、短期の有利子負債の減少を主とした流動負債の減少、そして「現金及び現金同等物」の増大を主とした流動資産の増大という状況が生じたためです。

 

 

 最後は、自己資本比率です。

 

〔自己資本比率=自己資本÷総資本〕

※自己資本=純資産-(新株予約権+非支配株主持分)

 

 

 ヤマトHDSGHD50%近辺と、高いレベルを維持しています。

日本通運は35%レベルを維持しており、グラフ上では一直線に見えるほど一定です。

 

 自己資本比率については、上場企業を中心に、ほぼ一定値をとることが多く見られます。

これは、目標値を持って運営している証と言えるでしょう。

 

 日立物流2020.03期の低下については、前述したように、IFRS第16号「リース」適用による負債の増大が主要因です。

 また2021.03期の低下については、前回述べたように、直前期に実施した大規模な自社株買いによる純資産の縮小が主要因です。

 

 

 

今回は以上です。

 

次回は、「資金力」です。

 

 

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