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COLUMNSブログ「論語と算盤」

自動車業界-4

2021年11月18日

自動車業界の4回目です。

 

今回は、「資本活用力」です。

 

 

 指標は、総資本回転率売上債権回収日数

棚卸資産回転日数流動比率自己資本比率となります。

 

 

 まずは、総資本回転率から見てみましょう。

 

〔総資本回転率=売上高÷総資本〕

 

 4社とも揃って右下がりであり、低下しています

 

これは、4社とも売上高を直近2期連続で下げていることが主要因です。

さらに、日産を除く3社が総資本を増加させていることも影響しています。

 

 

 トヨタは、短期と長期の有利子負債をそれぞれ2兆円強で合計4兆円の増加、

純資産では当期利益からの内部留保を中心に3兆円弱の増加、

合計で総資本は8兆円強の増加、62兆円強となりました。

 

 ホンダは、短期の有利子負債は減りましたが、長期の有利子負債で5千億円弱の増加、

純資産では内部留保を中心に1兆円強の増加、

合計で総資本は1.5兆円弱の増加、22兆円弱となりました。

 

 スズキも、短期借入金で16百億円強の増加、長期借入金は若干減少しましたが、

純資産では内部留保を中心に24百億円弱の増加、

合計で総資本は7千億円弱の増加、4兆円強となっています。

 

 これら資本の増加が、

今のところ売上高の拡大には反映されていないということです。

 

 

 

 続いて、資本の有効活用という観点から

流動資産の中の売上債権回収日数の状況を見てみましょう。

 

〔売上債権回収日数=売上債権残高÷日商(売上高÷365)〕

 

  4社とも長期化しています。

 

 売上債権残高が減少していても、

それを上回る度合いで売上高が減少していれば、

結果的にこの指標は長期化してしまいます。

 

 それを調べたところ、売上債権残高が減少しているのは日産のみで、

残りの3社は程度の差こそあれ売上債権自体が増加していました。

 

 

 売上高が下がっているのに売上債権残高が増すということは、

回収速度が遅れているということになります。

 

 原因については不明ですが、資本の活用度からすると、

やや不満足な状態というコメントになります。

 

 日産が結構長い期間になっているのは、

「受取手形および売掛金」は相対的に少額であるものの、

販売金融債権の残高が大きくなっているせいです。

 

 また、両者合計の残高は前年より減少していますが、

その減少度合いよりも売上高の減少度合いが大きかったため、

直前期ではさらに長期化する形になっています。

 

 

 

 次に、棚卸資産回転日数です。

こちらについても資本の有効活用という観点からの確認になります。

 

〔棚卸資産回転日数=棚卸資産残高÷日商(売上高÷365)〕

 

 こちらも総じて長期化傾向です。

 

 数値だけ見ると、売上債権回収期間と同様に、

資本の活用度が弱いと受け取らざるを得ません

 

 ただし、在庫残高が明確に増えているのはトヨタのみで、

他の3社は、在庫がほとんど前年並みか減少したのですが、

売上高の低下によって指標値が長期化してしまったという状況です。

 

 さらに、2020決算期以降については、やむを得ない事情もあるのでしょう。

具体的には、コロナ禍におけるサプライチェーンの停滞リスクを避けるためと考えられます。

 

 現在でも半導体の生産停滞や在庫枯渇によって、

各社は生産台数を下げているわけですが、

2020.03以降のコロナ禍では、陸海空全ての貨物輸送に滞りが生じました。

 

これらの悪影響を除くため、一定の在庫を確保したものと思われます。

 

 

 トヨタは、JIT(Just In Time)の生みの親であり、

さすがに4社中最短の回転期間ですが、

直前期では、上記の理由でしょうが、在庫を急増させた様子がうかがえます。

 

 

 

 続いて、流動比率を確認します。

安全性のチェックというより、

資本の活用度合いに関してバランスを見る観点です。

 

〔流動比率=流動資産÷流動負債〕

 

 一般的には100%以上が必須米国では200%程度が当たり前という指標ですが、

日本国内の他の産業と比しても、自動車業界はかなり窮屈な状況です。

 

 意外にもトヨタが4社中最低値です。

 

 各社の流動資産の中身を見ると、前述した売上債権の増加に加え、

4社とも現金預金勘定を増加させています。

 

 

総じて、もっと高い水準が望ましいと言えるのでしょう。

ただし、現状において特段の問題は見受けられません。

 

 

 

 最後に、自己資本比率を見てみましょう。

こちらも安全性というよりも、資本構成を確認する意味合いです。

 

〔自己資本比率=自己資本÷総資本〕

※自己資本=純資産-(新株予約権+非支配株主持分)

 

 日産を除いて、概ね40%台で推移させようとしているように映ります。

 

 レバレッジ、つまり他人資本の拡大で売上高を上げようとする取り組みについては、

昨今の経済状況や自動車産業が迫られている事業改革(脱炭素)を鑑みると、

あまり適切ではないのでしょう。

 

 そのような背景から、

前回見たROE10%に満たない状況だったものと考えられます。

 

 

 

今回は以上とします。

 

次回は、「資金力」を確認します。

 

 

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