サイゼリアの最終回です。
今回は、基本的な財務分析指標について、簡単に確認していきます。
まずは収益性の確認から。
第一に、収益性で代表的な指標とされる「総資本経常利益率」を確認します。
計算式は〔経常利益÷総資本〕です。
「経常利益」は、損益計算書で馴染みがあるでしょう。
「総資本」は、貸借対象表の負債と純資産の合計額です。(資産の部の合計と同額)
この指標の意味合いは、経営に投下した資金で、どれくらいの成果を得られたかということです。
「経営に投下した資本」とは、他人資本である負債と、自己資本である純資産の合計額です。
「成果」は、この場合、経常利益となります。
つまりは、「投資とリターンの関係」なのです。
2018.03期から2019.03期においては、若干の低下が見られました。
2020.03期では、経常損失の状況だったので、マイナス値になります。
さて、総資本経常利益率の計算式は、以下のように展開できます。
総資本経常利益率=経常利益÷総資本=(経常利益÷売上高)×(売上高÷総資本)
展開式第1項の(経常利益÷売上高)は、売上高経常利益率と呼ばれる指標です。
売上高に占める経常利益の割合を示しており、高い数値ほど良好です。
この、売上高経常利益率を左右するのが、売上高総利益率と、売上高営業利益率になります。
以上3つの売上高利益率について、当社の推移は以下のようになっています。
第1回で述べたように、2019.03期は材料費の低減が奏功したため、売上高総利益率が上昇し、続く営業利益率と経常利益率も上昇しています。
展開式の第2項の(売上高÷総資本)は、総資本回転率と呼ばれる指標です。
具体的には、経営に投下した総資本の何倍の売上高を上げたかが示されます。
この数値は、大きいほど良好です。
10億円投下して売上高10億円という会社と、同じく10億円投下して売上高20億円という会社では、当然ながら後者の方が効率的なのです。
この値の高低は、総資本を上手に使えているか否かとなります。
うまく活用すれば売上高は大きくなるでしょう。
では、総資本を使う先がどこかというと、それは資産の部の明細になります。
そして、資産の中には流動資産と固定資産があります。
そこでまず、流動資産をうまく使えているかを考えます。
これは、流動資産回転率で示され、計算式は〔売上高÷流動資産〕となります。
総資本回転率の分母が変わっただけであり、流動資産の何倍の売上高を上げられたかが示されます。
さらに細分化します。
流動資産を構成する科目中、重視されるのが売掛金など売上債権の回収期間、そして棚卸資産(在庫)の回転数です。
決算時点の両者の残高を、その決算期における日商(年間売上高÷365日)で除すことにより、日商の何日分の残高があるかが判明します。計算式は以下のとなります。
・売上債権回収期間=売上債権÷日商
=売上債権÷(売上高÷365)=(売上債権×365)÷売上高
・棚卸資産回転期間=棚卸資産÷日商
=棚卸資産÷(売上高÷365)=(棚卸資産×365)÷売上高
この値が小さいほど、売上債権の回収期間と、
棚卸資産の回転期間が短くて良好ということになります。
例えば、「月末〆・翌月末入金」という売掛金の取引条件では、平均的に考えると決算時点の残高はひと月分、30日になります。
条件がそれより悪く、「月末〆・翌々月末入金」という条件なら60日になります。
当社の総資本回転率、流動資産回転率、売上債権回収期間、棚卸資産回転期間を以下に示します。
大きな変化は見られませんが、やはり棚卸資産が目立ちます。
特に2020.03期は、第2回と第3回でも述べたように在庫量が増えつつ売上高が減少するという「悪化の挟み撃ち」となり、回転期間が長期化してしまいました。
上表の下2行は、固定資産をうまく使えているかを示す固定資産回転率、そしてそれをブレイクダウンした有形固定資産回転率です。
・固定資産回転率=売上高÷固定資産
これは上述した流動資産回転率と同じ考えであり、
固定資産の何倍の売上高を上げたかが示されます。
・有形固定資産回転率=売上高÷有形固定資産
これは、固定資産の中でも、本業に直結していると
考えられる有形固定資産を分母に持ってきたものです。
上記2指標は、やはり大きな値が良好となります。
当社の場合、2020.08期は分子となる売上高が低下したため値が低下してしまいました。
売上高が伸びないから固定資産を売却・処分するというわけにもいきませんので、やむを得ないことでしょう。
続いて、安全性を見てみましょう。
流動比率は、〔流動資産÷流動負債〕で表され、1年以内に返済すべき流動負債を、1年以内に現金化すると考えられる流動資産で賄えているかが示されます。
100%以上が必須であり、100%未満の場合は、短期(1年間)の資金繰りが危惧されます。
当座比率は、〔当座資産÷流動負債〕となり、流動資産から棚卸資産とその他流動資産を差し引いた当座資産で、流動負債を賄えているかというものです。
流動比率をより厳格にしたもので、不良在庫があるかもしれない棚卸資産、および不明瞭資産が混ざっているかもしれないその他流動資産を控除して考えるわけです。
数値は、100%以上であれば理想的と言えます。
上記2指標は、短期の資金繰りの状態を表すものであり、当社においては、2018~2019.08期は十分なレベルと言えるでしょう。
2020.08期は下がりましたが、それでも安全圏と捉えられます。
固定長期適合率は、〔固定資産÷(固定負債+純資産)〕で表されます。
この比率の意味するものは、固定資産は長期資金で賄われているかどうかです。
何年、何十年もかけて会社経営に貢献する固定資産を、短期で返済すべき流動負債で賄っている状態は危険です。
ここで長期資金とは、固定負債および返済の必要無い純資産をさします。
この計算式の値のみ小さい方が良好であり、100%以下が必須となります。
100%超の場合、長期(1年超)の資金繰りが危惧されます。
自己資本比率は、〔自己資本÷総資本〕で表され、経営に投下した総資本に占める自己資本の割合を示します。
大きい値ほど、返済に追われることがない状態となるため、経営基盤が盤石と言えます。
ただし、上場企業の場合は、投資家からROE(自己資本利益率)の上昇や、レバレッジ効果(てこの効果)の活用が求められるため、必ずしもそうとは言えません。
上記2指標は、長期の資金繰りの状態を表すものであり、当社はやはり十分なレベルです。
ところで、当社の自己資本比率は、相当高いと言えます。
これは、顧客市場が国内であることから(単体決算データ)、外国資本を呼び込むためのROEをそんなに高める必要性も無いでしょうし、外食産業は競争が激しい成熟産業であることから、借金を元手に広く出店して売上と利益を極大化させる戦術も現実的とは言い難いという背景があります。
他にも、生産性指標における一人当り売上高や一人当たり付加価値額、成長性指標における各勘定科目の成長率などがありますが、今回は割愛してここまでとしておきます。
株式会社サイゼリアは、
「日々の価値ある食事の提案と挑戦」をテーマとされています。
活気ある店舗の姿を、早く、再び、見たいものです。
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